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□fever
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悴んだ左手が、中で軋むような音を立てて動く。
ゆっくりと、じんわりと回りだす血液の熱が暖かいと頭で察する。
そんなことで、ひどく安心した自分がいた。



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勝手に左右に開いてくれるドアを出ると、さっきまで姿を見せていた太陽は、もう空の向こうに消えていた。
温かい店内にいた体には堪える程、外の風は容赦なく冷たい。
吐き出す息も俄かに白い。
少し体を震わせ、両手の袋を握り直した。
ぶら提げた袋を少し振りながら、マンションを目指す。

マンションまであと少しの所で、左手の荷物が指からずり落ちた。
ガツとアスファルトに落下した1.5Lのペットボトル、牛乳パック、ヨーグルト、スナック菓子。
袋から少しだけ飛び出し、買ったものが横たわった。
それを拾わず、体の横にあった左手を見た。
微妙な形で固まる左手は悴んでいて、僅かに指先が震えている。
早まる鼓動を抑えて、左手の指を伸ばした。

骨を伝い、軋む感覚がする。
指先に血液が回り、じんわりと熱を帯びてくる。

じっと左手を見つめ、息を吐き出した。

「…まだ…だい、じょうぶ…」




「どした?時任」

後ろを振り返れば、久保田がいた。
煙草を吸いながら、悠長に歩いている。

「久保ちゃん…」
「…あのさ、久保ちゃんじゃなくて、それ拾わなきゃダメじゃない」

時任の横まで来ると、久保田はその場にしゃがみ込み、足元にある落ちた袋と中身を拾った。

「どうかしたの?」
「……いや、…そのちょっとボーっとしてた」
「…ふーん」



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