NOVEL1
□substitute
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傘も持たずに飛び出した。
上着さえ着るのを忘れて、冬の雨空の下を走った。
きっかけはとても些細なこと。
俺が力んで、コントローラーを壊したことから、始まった。
いつものことだ。
熱中し過ぎて、コントローラーが悲鳴を上げる。
「…時任、またやったね」
「それ、何個目だと思ってるの?いい加減、力のセーブしながらゲームしなよ」
久保ちゃんが言うことが正しいってことは、ちゃんとわかってる。
でも、ゲームに負け続けていたせいもあって、その言葉を受け入れるだけの心の広さがなかったんだ。
「うっせーな。新しいの買えばいいだろっ。同じものなんて、いくらでもあるんだからさ」
「そう。壊れたら、代わりを用意すれば、それで足りるんだね。時任は」
「そうだよ、わりーか」
久保ちゃんは何も言わずに、出て行った。
いつもなら、必ず行先を言っていくのに。
ガチャンとドアがゆっくり閉まる音を聞きながら、目の前のテレビから虚しいゲームオーバーの音が響いていた。
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