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□fever
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拾った荷物を持ち、久保田は立ち上がりかけた。
ふと時任の右手に目がいった。
「それ、なに?」
「ん?あー、おでん」
久保田の目の前に袋を差し出す。
微かに湯気がのぼり、出汁の匂いが久保田の鼻先を擽る。
「ん、いい匂い。ちょっとそれいい?」
しゃがみ込む久保田は時任に空いている右手を差し出す。
訳もわからないまま、時任は右手にあった袋をその手に乗せた。
それを受け取り、久保田は立ち上がった。
「温かいね。時任、両手出して?」
「ん、こうか?」
出された両手の上に久保田は袋をゆっくりと置いた。
時任は渡された袋の一点を見つめた後、久保田を見上げた。
「久保ちゃんが持っててくれるんじゃねぇの?」
「んー、だってそれで手温かくなったでしょ?」
時任の思考は一時停止する。
それでも、左手から熱がじんわりと伝わってくる。
「さ、帰ろ」
歩き出した久保田を追いかけ、横に並ぶ。
「…あ、あのさ。…いいか?」
「どうぞ」
久保田の左手には、1.5Lのペットボトル、牛乳パック、ヨーグルト、スナック菓子の入った袋。
時任の右手には湯気がほのかにたつおでんの入った袋。
歪に並んだ影の間には折れ曲がった橋の様な影。
冬になり始めた道を歩き出した。
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たぶん、あいつは気付いていなかった。
それでも、あの行動だけで軋んでいた心は解された。
左手から伝わる熱は、まだ大丈夫だという証拠。
きっとそれがわからなくなった時は、俺が俺でなくなる時なんだ。
だから、もっと教えてほしい。
だから、もっと繋いでもいいだろ?