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□Rosso+Nero
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一人、幼子は暗闇から顔を出し

一人、黒い瞳は涙に濡れ

二人、歪んだ互いを見つめ続ける




Rosso+Nero




左の手首に薄らと幾つもの筋が見える。
不揃いな間隔で作られた1mmにも満たない平行線の痕。
包帯を外したことで現れた薄い傷痕を親指の腹でなぞった。


―――赤い雫…赤い舌…赤く色を差す白い頬


なぞりながら血流が脈打つ場所を見つけ、そこを抑えつけた。
皮膚下に見える血管は、その中に赤い液体が巡っているのかと問いたくなるような色で浮き出す。
とくんとくんと脈打つそれは自分が生きているのだと示している。
それでも体の奥底から湧きだす衝動を止めるにはいたらず、むしろそうして見えた青い筋は更に衝動を掻き立てる。


『お前っ…ふざけんなっ!!俺はそんな事頼んじゃいねぇ!今までのままで十分だ!!』


ふと怒った顔が過った。初めてそうした日、殴りかかられる勢いで言われた。
それでも、次に浮かんだ顔は苦渋に満ちていて、なぜか自分の中が満たされた気になった。


『…わ、るい…ホントに………ごめん…』


久保田はおもむろにキャビネットを漁り、隠されたものを探す。
いつの日から部屋から姿を消し始めたものたち。
自分が隠しているわけではない。
ましてや、意思あるものではないのだから勝手に姿を隠すはずもない。
それはある時からこの部屋に住み始めた奇妙な同居人の仕業だ。
久保田はその理由を問わず、隠し場所を聞き出すことをはなから諦めていた。
それを聞いたとこで、あの時のように眦を吊り上げ、怒気を隠さずに詰め寄られるのが想像できる。

それでも久保田は探し続けた。
日常生活に必要なものは隠され、必要な時のみ同居人がどこからともなく持ち出しては使い、隠す。
ならば、この部屋のどこかにあるはずだと、隠されていそうな場所を漁り続ける。
数十分が経つが未だに見つける事は叶わない。


―――なんか…面倒くさくなってきたな…手っ取り早くできるものは、と…


幾分かの苛立ちを気配に忍ばせ、久保田はキッチンに向かった。



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