チャイナ☆ラブアル

□第一話
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ここは中国のとある街。どちらかといえば都会の街で、栄えている所だ。
いつも通り、その街の衣服屋には客がたくさん来ていた。

「いらっしゃいませヨ! 最近良い生地が入ってきたところネー」
15歳ほどの少女がなまりの入った言葉をしゃべりながら、手馴れたように接客をしている。
その店の店頭でにこにこしながら接客をしているのはこの衣服屋の娘、林 香鈴だ。
上で二つにしたおだんごヘアを鈴のついた赤い紐で縛った、紫がかった黒髪はなかなか綺麗である。
桃色の衣を着た愛らしい娘だ。

「ちょっと、香鈴。いいかしら?」
接客中の香鈴に話しかけたこちらの女性は40過ぎぐらい、特に言葉になまりは無い。
彼女は林 美雨、香鈴の母親である。
おっとりした、たおやかな印象の女性である。
「ん? 何アル?」
香鈴が美雨のほうを振り向く。
「今日来るお客様へのお菓子、きれちゃっているのよ。買ってきてくれない?」
「分かったネ、行ってくるアル」
香鈴はパタパタと街のお菓子屋へと出掛けていった。

さすが都会の街だけあってか、人通りもなかなか多い。
漬物などのの入った壷を運ぶ子どもの姿や、買い物をする町人とたびたびすれ違う。
「あ! せっかくだから近道するアル」
香鈴はそう言うと、細い路地裏のわき道へと入って行った。
ここを通るほうが店へと近いらしい。
「あれれ〜、どうしたのかな? お嬢さん迷子?」
いきなり知らない声に話しかけられたので、首をかしげながらそちらを振り向く。
5人ほどの20代くらいの体格の良い男性、全く知らない人物だ。自分に何の用だろうか?
「何の用アル? 私急いでいるからそろそろ行くアルヨ」
そう行って香鈴は先を急ごうとする。だがいきなりその男達に腕を捕まれる。
「つれないこと言うなよな〜、俺らと遊ぼうぜ〜」
ニタニタと下品な笑みを浮かべる男達・・・大体何をしようと思っているのか想定できる。
「離すヨロシ!」
必死で香鈴は腕をふるが、やはり男の力には敵わない。
「俺らと一緒に来いよ!!」
怒鳴りながら男達は香鈴をひっぱろうとする。
「・・・離せって言ってるアル!!」
そう言うと香鈴は自分の手をつかむ男の手をグキッと音が鳴るまで捻った。
男は「うぐっ」と小さく悲鳴をあげる。
「くっそ・・・調子に乗りやがって!!」
他の男達が一斉に香鈴に襲い掛かる、手前の男が殴りかかってきた。
香鈴は怯む様子を見せずにサッと避け相手の顔面に蹴りを入れる。
足音をほとんど立てずに体術を繰り出してゆく、とても身軽な体だ。
そして他の男達もバッタバッタと倒していく。


今から3年前ほどに遡る。香鈴もまだ幼い顔をしていた。
『いいか香鈴、体術は鍛えて損は無いアル。お前の身軽な体は体術に向いてるネ』
背も高くガッチリとした体系のこの男性は、香鈴の父親の林 柚犀だ。
柚犀の口調は香鈴のようになまっている、香鈴の言葉のなまりは父親譲りだったのだ。
父の柚犀は、元々田舎の人間だった。
この街へ出稼ぎにきている時に今の母親である美雨と知り合ったらしい。
そしてそのまま美雨の家に婿入りをし、香鈴があの場所で生まれたそうだ。
『私頑張って体術覚えるヨ!』
香鈴は真剣な顔で毎日と言って良いほど香鈴は柚犀に体術の稽古を受けさせてもらっていた。
この稽古のお陰で、香鈴は体術を得とくしたのだった。
香鈴の強さはこの稽古のお陰だったようだ。


「・・・調子に乗るなっつってんだろ!!」
かろうじて起き上がった者がいきなり刃物を香鈴につきつける。
香鈴もその行動は予想外だった、怯み後ずさる。
「へっ・・・最初からそうおとなしくしていれば良かったんだよ」
すると他の男達も起き上がり、後ろから違う男が香鈴を羽交い絞めにする。
「嫌っ! 離してヨ!!」
香鈴がそう叫ぶが勿論男達は聞いていない。
刃物はまだ自分のほうを向いている・・・もう駄目だ!!
そう直感して目を瞑った瞬間、男達のうめき声が聞こえた。
何が起きたんだろう・・・すると羽交い絞めにされていた体も自由になった。
「大丈夫ですか?」
優しいテノールの声に香鈴はそっと目を開ける。
目の前には青年が立っていた。
さっきの男達のような下品な笑みではなく、さわやかな微笑。
どちらかといえば細身だが筋肉質な体つきで、とても端整な顔立ちである。
後ろでゆるく結っている青みがかった黒髪が綺麗だ。
一般的に言う、さわやかな青年とはまさにこういう人のことだろう。
「平気アル、助けてくれてありがとうヨ」
香鈴のその言葉を聞き「それはよかった」と微笑む顔も格好良い。
「そういえば・・・名前は何て言うカ?」
香鈴は首をかしげて相手の青年へ問う。「私は林 香鈴ヨ」と言葉を付け足し。
「僕の名前は摧 刻龍です。刻龍で良いですよ。よろしく香鈴」
香鈴も「こっちこそよろしくヨ、刻龍」と言葉を返す。
「ところで香鈴・・・貴方、許婚はいますか?」
「へっ?」
いきなりの問いかけに素っ頓狂な声をあげる。何を言い出すんだこの青年は。
「いないアルヨ?」
「そうですか・・・なら気兼ねなく言えますね。・・・私の妻になってください」
にこりとさわやかな微笑を浮かべ、とんでも無いことを刻龍は言い出す。
最初は言葉の意味が理解できなかった香鈴だが、次第に意味が分かり、みるみるうちに顔が赤くなる。
「いいいいきなり何言うヨ! 私達、まだ初対面アルヨ?」
香鈴の言い分が最もであろう、驚いた顔でそう言う。
だが刻龍の余裕に満ちた微笑は崩れない。
「一目ぼれ・・・と言えば良いのでしょうか?」
「な、ななな!?」
香鈴だけが顔を赤くしながら目をぐるぐると回していた。
「さぁ、急ぎましょう。こいつらは山賊です、こいつらの味方が駆けつける前に逃げましょう」
刻龍は香鈴の手をとりさっとその場を後にした。

刻龍に良い菓子屋を紹介してもらい、買い物は済ませた。
そして刻龍は香鈴の店へと来ていた。
今は接客も一息ついたところだったので丁度良かったようだ。
店の奥にある香鈴の家の客間には香鈴、父の柚犀、母の美雨、そして刻龍がいた。
香鈴が危ない目にあった、だからそのことはきちんとご両親に伝えましょうと刻龍が言い出したことが発端だった。
「まあ、こんなに格好良い人に助けてもらったの。よかったわね香鈴」
いつものたおやかな笑みで美雨がそう言う。
「ありがとうございますネ、感謝してるアル」
柚犀が深々と頭を下げる。
「そういえば、摧 刻龍さんと言えば・・・あの?」
美雨がそう尋ねると、刻龍は「はい」と頷く。
何のことか分からずに香鈴は頭にハテナマークを浮かべる。
「母さん、あのって・・・何アル?」
首をかしげ、香鈴がそう尋ねる。
「あら、うちのお得意様の摧家の息子さんじゃない」
お得意様・・・うちのお得意様の摧家は確か、大きな貿易業を勤めていたような・・・
「・・・ええぇええぇ!!? 刻龍はそこの息子さんアルカ!?」
香鈴の家の衣服屋も繁盛はしているが、摧家の行う貿易業に比べれば売り上げなんて比べ物にならないくらい少ない。
つまり刻龍はとても裕福な家庭の息子さん、というわけである。
その上摧家は一人息子で、その息子が跡継ぎになるそうだ。
つまり刻龍がそのとても大きく裕福な貿易業の跡継ぎというわけである。
比べて香鈴には姉がいる、だからこの衣服屋は姉が婿をもらって継ぐらしい。
なので香鈴は嫁入りする場所を探さなくてはならない立場でもある。
「僕、もしも皆さんがよろしければ・・・香鈴さんを嫁にさせていただきたいんです」
にこりと微笑み、刻龍は美雨と柚犀にそう告げる。
「・・・いいじゃない! 香鈴も嫁入り先を探していたんだし適年齢だし・・・いいじゃない!」
美雨がにこにこしながらそう提案する。
「・・・悪く無い話アルナ、自分は香鈴と刻龍さんにどうするかは任せるアルヨ」
柚犀までもがそう言いうんうんと頷く。
美雨も柚犀もお得意様の家へ嫁ぐという話だから心配も無かった。
おまけに刻龍の家柄、親にとってはむしろこちらからお願いしたい話のようだ。

「・・・・・・こ、こんなのってぇ・・・」
香鈴は力なく、そう呟くのだった。

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