チャイナ☆ラブアル

□第四話
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あれからしばらく香鈴は刻龍の部屋で無駄話をしていた。
「・・・あ、もう夕方アルカ」
時間を忘れて話し込んでしまった、すでに空の色は橙色に染まっている。
「家まで送りましょうか?」
「えっ・・・」
おそらく刻龍は、自分に気を使ってそう言ってくれただけなのだろう。
けれど、そう言われた瞬間またさっきの息苦しくなる変な感じが胸を過ぎる。
「い、いいアル! 一人で帰れるネ!」
そう言い残すと、香鈴は一目散に刻龍の部屋を後にした。


家に帰宅した香鈴、すでに店は閉めていた。
夕食を食べて湯浴みを済ませると、すぐに自分の部屋の寝台にうつ伏せになる。
「・・・なんなんだヨ、この感じ・・・」
昼間にも先ほどの夕方にも感じた胸が苦しくて窮屈になる変な感覚・・・こんなことは初めてだ、原因が分からない。

謙浄の言葉も、刻龍の行動も、本当に嬉しかった。
でも嬉しいのに入り混じって・・・照れや、恥ずかしさも感じたような気もする。
そして、嬉しく恥ずかしいと思うのと同時に・・・自分はこんなに想われて言いのだろうかという不安も感じた。
そんないろんな気持ちが入り混じっていき・・・・・!?
「・・・・・って!! なな、なんで私が・・・!!
 刻龍の行動に嬉しくなったり恥ずかしくなったりしないといけないアル!!
 大体・・・不安だって感じる必要無いネ!!」
自分で導き出した答えのはずなのにそれを否定する言葉をまくし立て、そのまま香鈴は不貞寝してしまった。


朝の街中はなかなかにぎやかである。
市場へと物を売りに行く商人といくたびもすれ違う。
そんな街の中を刻龍と香鈴は2人で歩いていた。
香鈴は今日だけ店の手伝いを両親や姉に半ば強制的に休まされた。
刻龍は元々この日のためにと休みをつくっていた。
そうして、この二人は街中を歩いている。
世間的に言う「デート」と言うものだが・・・その雰囲気とはデートとは程遠いものだった。
「どこへ行きたいですか?」
「どこでも良いアル!! だからこの手を離すヨロシ!」
さりげなく刻龍がつないだ手も、香鈴は即座に振りほどく
刻龍は苦笑を浮かべるが、すぐにいつものさわやかな笑みに戻り「素直じゃないですねー」と呟いてみせる。
「う、うっさいネ!」
むすっと顔をしかめる香鈴、そんな香鈴に「そんな顔も良いですよ?」なんて刻龍が言う。
すると香鈴は刻龍に拳を振るう、だが呆気無くその拳はやんわりと受け止められた。
甘い雰囲気などどこにも無く、デートといえる代物では無い。
「そんなに、私と街を歩くのが嫌ですか?」
刻龍の問いかけに一瞬「うっ」と詰まる香鈴。
いつもの調子ならここで「当たり前アル!」と突っぱねるはずなのに・・・何故だかそれができない。
また昨日のような変な感覚にとらわれる・・・なんだか胸のあたりが変だ、今の自分はおかしい。
─────自分のことを想って頑張ってくれた相手・・・どうしても、突っぱねることができない。
「・・・別に、嫌とまでは言ってないヨ」
そんなことを香鈴が呟くと、刻龍は満面の笑みを浮かべる。
「それは良かった! じゃあ行きましょうか、良いお店知ってますよ」
そしてその笑顔のまま、刻龍はまた香鈴の手をとる。
香鈴は慌てて先ほどのように振りほどこうともしたが、刻龍の笑顔を見るとそれもできなかった。
「・・・・・・こ、今回は・・・今回だけは!!勘弁してやるヨ!!」
“だけ”を強調して言う香鈴。そんな香鈴に「はい、お姫様」と返事をする刻龍。
「だ、誰がお姫様アルカ!!」
赤い顔を隠すためにそっぽを向く香鈴。

この店の杏仁豆腐は美味しいと評判だ。
香鈴もその評判は知っていた、だからかなんだかウキウキする。
席に座りながらニコニコとする香鈴、そんな香鈴を見ながら向いの席へと腰を下ろす刻龍。
「嬉しそうでよかったです」
刻龍がにこりと微笑みそんなことを言う。
無論香鈴には「別に嬉しくなんかないヨ!!」と言われてツンとそっぽを向かれたが。
だがお店の人が杏仁豆腐を持ってきてくれた瞬間、香鈴は目をキラキラとさせて幸せそうに頬張っていた。
そして他愛の無い話をしながら、二人はそれなりに楽しい時間を過ごした。

店から出ると、香鈴は「美味しかったアル!」と幸せそうに言っていた。
「・・・ありがとナ、刻龍」
「え?」
ぽつりと香鈴が呟いた言葉が刻龍は予想外だったらしい。すっ呆けた声を出す刻龍。
「・・・だ、だから!! お礼を言ってるネ!! ・・・このお店を紹介してくれたお礼アル!!」
顔に若干赤みのさす香鈴、フンッと鼻を鳴らしてスタスタと前へ歩いていく。
「私だって、嬉しいことをしてもらったらお礼くらい言うヨ!」
立ち止まりくるりと後ろを振り返る香鈴、そして「早く来るヨロシ! 置いて行くアルヨ!」と刻龍へ呼びかける。
にこりと微笑み「次は何処へ行きますか?」と、とい掛けながら刻龍は香鈴のほうまで走っていく。
その刻龍の微笑みは、嫌味を感じないとても嬉しそうな表情だった。
「次はこっちアル!」
香鈴が無邪気に微笑んで指差すほうへと走ってゆく。
刻龍もくすりと微笑み香鈴の後を追うように走る。

この日は、2人にとってとても楽しい1日となった。

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