俺様王子にアホ姫様

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「・・・なんていうか、学校ってこんなにデカくなくても良くない?」

それは、校舎というにはあまりにも大きな建物だった。
くすみ一つない綺麗な白い壁に、金色で縁取られた窓。ベランダも何処ぞのお城のバルコニーを思わせるほど豪勢だ。
そしてその校舎が遠くに見えるほど、手入れの行き届いた広い芝生の庭が広がっている。噴水なんてのもあった。
今現在自分の立っている校門も豪勢な造りだ。
3メートルほどある鉄格子、取っ手は獅子のつくりが施されていて、てっぺんには天使の飾りがある。

─────この私立鈴星学園は金持ちしか通えないおぼっちゃま学校、そして幼等部から高等部まである男子校だ。

校門から少し校舎を覗いてみただけで真新しい制服を着た小柄な少年は呆気にとられていた。
クリクリとした蜂蜜色の瞳をパチクリと瞬かせている。

ふいに風が吹き、少年の肩につくかつかないかくらいの長さであるブラウンの髪が靡く。
その風が止んだら、彼は決心をつけたのか校門にあるチャイムを鳴らした。
チャイムの音も気品があった、この学校はどこまで金を使えば気が済むんだ。

しばらくすると数台のカメラが校門から出てきて、チャイムを鳴らした少年を映す。そして「はい」と男性の声がした。
「えっと・・・転校してきた坂上葵です」
少年の名は坂上葵というらしい、葵はカメラに向かってペコリと頭を下げた。
「お待ちしておりました。理事長がお待ちですので、まずは理事長室へと来て下さい」
そう言われると同時に、豪華なつくりの鉄格子がキーッと音を立ててゆっくりと開いた。
おそるおそる中へと入っていき、よく整えられた庭を慎重に歩きながら葵は校舎へと向かう。
「・・・こんなの、絶対学校じゃない!」
少年は学校の大きさに負けないくらい大きなため息をついた。


*


「葵、転校するぞ。お父さんが理事長をしている学校に転校するんだ」
月に1度帰ってくるかこないかの父のその一言を聞き、葵は唖然とした。
「て、転校? なんでいきなり?」

訳が分からない、何故いきなり転校しないといけない・・・?
普通の学校に通い、普通のマンションにたまに帰ってくる父と2人暮らし・・・実質1人暮らしをしていた葵。
母は1年前の高1のときに亡くしてしまった、不慮な事故だった。

葵の父はおぼっちゃま学校“私立鈴星学園”の理事長だ。
鈴星学園は全寮制なため、理事長という立場である父はあまり学校を離れられない、なのでたまにしか帰ってこられないのだ。
なので葵は1年前から実質1人暮らし。お陰で家事全般得意となり、その生活にも慣れていた。
それなのに・・・なんでいきなり転校なんてするんだろう?

「それはお前、父さんが葵のことを心配だから!
 大体・・・父さんはマンションに可愛い葵を1人住まわせるなんて反対だったんだ!」
まさに親馬鹿の意見である、机をバシバシ叩きながらそう話す父。
「けれど、俺も母さんも平凡な暮らしが好きなの!」
そんな父に負けじと机をバシバシ叩きながら反論する葵、その姿は可愛らしい。
父はそんな学校の理事長だから元々金持ちである、だから豪華な家に使用人を雇って・・・なんて生活もできた。
だが母は反対した、母は平凡な生活が好きだったから。
葵も反対した、母に似てか葵も平凡な生活が好きだった。
「いつもお父さんは葵に会えなくて寂しかったから・・・
 それに何より1年も葵に1人暮らしをさせてしまったことに後悔してるんだ!!
 ・・・葵の部屋の荷物は学校の寮に運んだ、高校の手続きも済んでいる!
 制服一式すでに揃えてあるしな! 明日から鈴星学園に通うんだ!」
「へっ!!?」
父の言葉を聞き、あわてて自分の部屋へと走る葵。
ドアをバンッ!と開けると、部屋の中の荷物は綺麗さっぱり無くなっていた。数時間前はあったはずなのに・・・。
「う、うそだろぉ・・・」

こうして、おぼっちゃま学校「私立鈴星学園」での生活が始まった葵だった。


*


こうして話は冒頭へと戻る。葵の私立鈴星学園でのスクールライフが始まった。
靴箱へとたどり着くと、昨日父から聞いた自分のクラス「2−B」の場所を見てみる。
一番端に「坂上葵」と書かれた場所には上履きが入っていたので、それと自分の靴を履き替える。

「えぇっと・・・理事長室って何処?」
少し歩くと、学校マップというものを発見した。それを見ながら理事長室を確認する葵。
マップを見なくても分かることだが、とにかくこの学校の広さは異常だった。

「何してるんだ、お前」
ふと男子生徒の声がした。まあここは男子校だからごく普通のことだろう。
誰かを呼び止めているみたいだった・・・名前を言ってやらないと、そいつも自分が呼ばれているか分からないと思うが。

「お前のことを呼んでいるんだ」
やっぱり、呼ばれている側も気づいていないみたいだ。
だから名前を呼んでやらないと相手だって気づかないだろうに・・・

「お前だよ、無視を決め込もうなんていい度胸だな」
突然肩を掴まれてぐるりと体の向きを変えられる葵、すると目の前には先ほどから呼んでいたのであろう男子生徒が立っている。
自分よりも高い身長、サラサラのショートの黒髪、髪と同じ色の切れ長の瞳・・・世間一般で言う「格好良い」の分類に入るであろう男子生徒だ。

「・・・え、俺?」
自分が呼ばれていたことに全く気づかなかった葵、自分を指差して相手にそう尋ねる。
「他に誰がいるんだ」
ハァッと呆れたようにため息をつく男子生徒。
けれど他にも生徒は歩いているんだから“他”っていくらでもいる気もするが・・・

「お前、名前は?」
男子生徒に尋ねられる、正直に「坂上葵です」と一礼する葵。
「ふぅん・・・」
興味なさ気に返答する男子生徒、興味が無いのなら最初から聞かなければいい気もするが・・・。
「そういう貴方は?」
今度は葵が同じ質問をする、すると男子生徒は「浅田勇人だ」と面倒臭そうに自己紹介する。

「・・・ここは男子校だ。女子の入ってくるところじゃない」
いきなりの勇人の言葉に「は!?」と素っ頓狂な声をあげる葵。

・・・確かに自分は小柄で、顔もどちらかと言えば女顔だ。名前だって中性的で。
小さい頃にそれを理由に嫌がらせを受けたこともあった。
だが・・・男子の制服を着ているのにこんなにあからさまに性別を間違えられたのは初めてだ。

「俺は男だよ! ってか男子校に来る女なんて聞いたこと無い!」
ズイッと勇人に詰め寄る葵、ついでに睨みもきかせてやる。
だが体格や顔立ちのせいだろう、そこまで迫力が無い。
勇人もただ首を傾げるだけで変わらず堂々としている。
「・・・違うのか?」
「当たり前!」
きょとんとした顔で質問する勇人にキッと睨みをきつくしながら怒鳴るように答える葵。
廊下を歩いている生徒が一部興味有り気にこちらを見てくるが、そんなの関係無い。

すると勇人は葵の両肩を掴み、そのまま葵の背を壁へと押し付ける。
背中の痛みに顔をしかめる葵。「何だよ!」と噛み付きそうな顔で勇人に食って掛かる。
「・・・肩細い、ちゃんと食べてる?」
「食べてるよ!」
「大きなお世話だな!」との言葉も付け足しながら、葵は必死で勇人の腕を振り払おうとする。
だが勇人の腕はびくともしない、力の差がここまで出ると正直ヘコむ。
そんな葵を満足そうな眼差しで見る勇人。
「・・・気に入ったよ」
そう言うと勇人は葵に顔を近づける、そして・・・

葵の唇を自身の唇で塞いだ。
世間的に言う「キス」というやつである。

「・・・・・・・!!? な、な・・・!!」
いきなりの出来事で、5秒くらいしてからやっと自分のされたことに気づいた葵。
「その驚き様・・・初めてなんだ」
ニヒルな笑みを浮かべる勇人がとても憎く感じる、しかも勇人の言うとおりこれがファーストキスだった。
「んなっ・・・!!!」
次々に起こる出来事にもはや頭がついていかない葵、言葉も出てこない。
「決めた・・・お前は俺の物だ、誰にも渡さない」
満足そうな顔をして、またしても顔を近づけてくる勇人。

「・・・・・う、うわあああああ!!!!」
寸でのところで葵は勇人の腹に思いっきり蹴りを入れた。
そして勇人の腕の力が抜けた瞬間、葵は腕を振り払い脱兎の如くその場を去っていった。
「・・・・・・面白い。ますます気に入ったよ・・・坂上葵、お前は俺の物だ」
ニヤッと人の悪い笑みを浮かべる勇人、そしてそのままその場を去っていった。

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