俺様王子にアホ姫様

□#7
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「はー・・・」
 葵は心底残念そうにため息をついていた。鞄から取り出したラブレターを一瞥し、更にもう一つため息をつく。
「これで男・・・あー、だから男子校って嫌なんだよ」
 先ほど靴箱から取り出したピンクの便箋を、葵は恨めしそうに眺める。
 一応呼び出されたので来てみたことは来てみたが、やはり気乗りはしない。


しばらくすると、一人の少年が姿を現した。
「あ・・・これ書いたの、お前だったの?」
 葵は心底驚いた。何故ならそこにいた人物は自分のクラスメートで、しかも勇人の親衛隊の一人だったからだ。
(名前は確か・・・月島っつったっけかな)
 転校して数ヶ月が経つので、葵もクラスメートの苗字だけならなんとか覚えていた。
「そう、僕が書いた・・・」
 月島は何故か片手をポケットに突っ込んだまま、葵の前まで歩み寄ってきた。
「いやー・・・でも俺さ、その〜・・・男には興味ないっつーか・・・なっ?」
 同性からの告白なんて受けたことの無い葵は、どう返事をすればいいものかと悩んでいた。
「そうなんだ。でも僕は興味があるんだ」
 月島のその言葉に、葵は更にどうすればいいのかとおろおろしだす。
「でも・・・僕は君には興味がないんだ」
 月島のその言葉に、葵は「へっ?」と頓狂な声で答える。
「だって、僕が好きなのは・・・勇人君なんだよ!!」
 月島の手の中に、きらりと光る何かが握られていた。葵は反射で月島から距離をとった。そして、その行動は正解だった。
 彼の手に握られていたのは───刃がむき出しにされたカッターだった。
「えぇ!? なんだよこの展開!? おま、俺にラブレター送ったじゃん!」
 葵は顔面蒼白で後ずさる。
「ラブレター?・・・僕は君が勇人君にくっついていて気に障るってことを書いただけだよ?」

葵は手紙の内容を思い出す。

───ずっとずっと、貴方のことが気になっていました。

今思い返せば、これだけでは『好き』という意味にはとれないかもしれない。
“気に障る”という意味にもとれなくもない。

───なんか、怪しくない?

今になって彰人の言葉を思い出しても、もう後の祭りである。
「消えろ! お前なんかが勇人君に近づかなければ・・・!」
 月島はカッターを振り回しながら葵に襲い掛かる。葵はそれを器用に避けていく。
「待て待て落ち着け! 話せば分かる!」
「うるさいっ!!」
 避けても避けても、カッターの攻撃が止む気配はない。ついに葵は足を滑らせて地面へ尻餅をついてしまった。
「終わりだよ・・・消えな、坂上葵!」
 カッターが迫ってくる。葵は恐怖でもう体を動かすことができなかった。

───こういう時こそ助けに来やがれ、バカ浅田!!

葵は硬く目を瞑った。
瞼の裏に映るのは・・・何故か、いつもの不適な笑みを浮かべた勇人だった。

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