ヘタレ恋

□第1話
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夏休みが終わったばかりでまだ暑い日が続いている。街行く人のシャツも半そでだ。
けれど風が少しずつ冷たくなっている、秋も近いのだろう。
そんなことを考えながら俺、笹倉直貴は登校道を歩いていた。
俺の通う高校は公立宮野高校、部活はサッカー部に所属している。
一年生の部員だけで新設した部だから、少々不安はある。けれどサッカーは楽しいから、今の部には満足している。

───とは言うものの、悩みはあるのだが。


*


「休憩入るわよー! 十分後にミーティング開くから、その頃には集合!」
授業も終わり、今は部活の時間だ。
主将である本川の言葉に、皆は、おー!だの、はいよー!だのと思い思いの返答をする。
最近は本川のシスターボーイっぷりにもずいぶん慣れた。



「み、なさん! 差し入れ、持って来ました!」
マネージャーの上野の声と、その手に持たれた檸檬の蜂蜜漬けに、部員達は大盛り上がりで上野のほうへ群がっていく。
おろおろしながらも、部員に懸命に笑顔を向ける上野───実は、その頑張り屋なマネージャーが、俺の悩みの種だったりする。
悩みの種、と言っても別に上野が何かしているわけではない。


───今日の上野も、可愛いなぁ。


上野のことが、いつの間にか気になる存在となっていた。
練習中も、時々上野のほうへ視線を向けてしまうのは、俺の悪い癖だ。
それが見つかると、いつも親友でありチームメイトである三塚に白い目で見られてしまったりする。
(いつかは上野に、この気持ちを伝えたい!)
そんな目標が、いつの間にか俺の中にあった。


*


「次の連休に、合宿をしようと思っている!」
今は練習後のミーティング中である。
顧問である大崎の言葉に、皆は唖然としてしまった。
この先生は、何かと唐突な提案をいたすのだ。
「せんせー! そういうのはもっと早くに言ってー!」
手をあげてブーブーと不平を垂れ流すのは、良く言えばムードメーカー、悪く言えばKYな子である、沖野だ。
その沖野の頭にチョップを落とし、少しは静かにしろ、と呆れた様子で注意しているのは沖野のクラスメート兼保護者役である川島だ。
「しかし・・・もう少し早くにそういう予定は部員に伝えるべきですよ。先生の場合は他の事も無計画で唐突過ぎます」
先生にも臆することなく、草垣は辛口評価を下す。可愛い顔して結構厳しいことを言うのだ、こいつは。
しかし先生は気にする様子を見せず、いやーすまんすまん!と言ってガシガシと頭を掻くだけだった。
(まあ・・・この合宿で、上野との距離も縮めるぞ!)
今回の合宿に、俺は密かにそんな目標を掲げた。
「今回の合宿先では、常英学園と練習試合をやるからな!」
大崎の言葉に、上野は途端に真っ青な顔をして、足元にばさりとプリントを落とした。

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