現代系短編集

□変身したぬいぐるみ
1ページ/3ページ

「おやすみなさい」
夜の11時、家族にそう告げ、トントンと単調なリズムで真美は階段を登っていく。

自分の部屋の前につくと、静かにドアを開け、部屋に入る。
枕元にある小さなライトをつけ、「今日も疲れた」などと愚痴をこぼしながら、ベッドへ上がり布団の中へと身を沈める。
枕に頭をおくと、目の前にいる「彼」の存在に気付く。
真美は「彼」をギュッと抱きしめる。
真美が抱きしめている「彼」はというと、うんともすんとも言わない。
だが、それもそのはずだろう。その「彼」とは「クマのぬいぐるみ」なんだから。真美はこのクマのぬいぐるみに「テディ」と名付けている。
フワフワした肌触りが心地良い。さらに力を込めてギュッと抱きしめる。
そのうち、真美は夢の世界へとおちていった。

「…いつも、力込め過ぎだよ」
そんな声で、真美は目を覚ます。
最初は寝ぼけ眼でボーッとしていたが、次第に意識もハッキリしてくる。
同時に、今の状況にあまりにも驚き、ベッドから転がり落ちそうになる。
「だ…誰なの!?」
彼女が驚くのも無理ない、自分と同じくらいの歳の青年を抱きしめて寝ていたのだから。
「『誰なの!?』なんて酷いな〜…いつも一緒にいるのに」
その青年は苦笑いしながら、黒い瞳で真美を見つめる。

―――その黒い瞳は見覚えがあるものだった。
見覚えのある吸い込まれそうな黒い瞳、赤茶色の髪。茶色系統なスーツを着ていて、シャツの襟にはワインレッドのリボンを結んでいる。
―――そして、頭にはクマの持つ柔らかそうな茶色の丸い耳が付いている。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ