現代系短編集

□大人で恋して
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────あれから、6年が経ちました。
私、藤野瑠璃は今年で22歳。2年前に見事成人しました。
今は専門学校を卒業して、ある会社に就職しています。
そしてそして・・・なんと私は、6年前のクリスマスに見事恋人となった相手、浜川圭輔さんと同居生活の真っ最中なのです!



「ねぇ、瑠璃ちゃん。俺暑いんだ〜・・・」
ある日の休日。二人で何をするでもなくお菓子やらジュースやらを飲み食いし、まったりしていた時のこと。
圭輔さんに呼びかけられたから、私はさきほどまで頬張っていたスナック菓子から手を放す。
「私は暑くも寒くも無いけれど・・・どーしたの、圭輔さん?」
振り返り、愛しの彼である圭輔さんへ首を傾げる。

今の彼は、どこか目が虚ろで、頬が紅く染まっている。
単に体調が悪いものとは違うように見えた。

────これってもしや・・・

慌てて圭輔さんが先程まで飲んでいた飲物を確認すると・・・やはり、予想通りだ。

「圭輔さん、それはお酒ですよ。」
ため息交じりにそう言いながら、小さめのグラスにつがれた飲物を指差す。
「アクエリと間違えた・・・」
ひとり言のようにポツリと圭輔さんは呟き、唸りながらテーブルに頬杖をつく。
いつもと違う態度に気付いて、あぁ酔っちゃったのか、と一人納得した。

圭輔さんは酒に弱い。なので店でも客には出すが、できるだけ自分では烏龍茶しか飲まないように気をつけているらしい。
このことは店の人の中でもオーナーである石川満さんしか知らない、言わば企業秘密だ。
限度は一口、少し舐めるくらいでも危ういとか。
私も何度か、仕事のためにやむを得ず飲酒をして酔ぱらった圭輔さんの介抱をしたことがあった。だから今日も特に驚かない。

「ねぇ瑠璃ちゃん・・・今すぐヤろう?」
・・・前言撤回。
いきなりの圭輔さんの言葉に思わず頓狂な声をあげて驚いた。
「最近ずっと仕事だったろ・・・溜まってんだ、俺」
酔いのせいか、圭輔さんの表情が更に色っぽく見える。
「瑠璃ちゃん・・・瑠璃」
名前呼びになるのは、余裕がない証拠。
やはりその通りなのか、いきなりリビングのソファの上に押し倒された。
「あぁ・・・早く瑠璃のナカに挿れたい・・・」
虚ろな目でそんなことを呟きながら、圭輔さんは手際よく私の服を脱がしていく。


────今回も、いつも通り激しいかも。
甘い快楽に身を委ねながら、そんなことを冷静に考えていた。


予想通り、とても激しかった。5ラウンドぶっ続けでやり、先程やっと解放された。
乱れた服装を整えた今も、腰は痛くて動かせない。

やっと酔いが覚めたらしい圭輔さんは、ずいぶんと慌てた様子だった。
まだ付き合ったり同棲する前の私だったら、今の圭輔さんの様子は想像できなかっただろう。
その圭輔さんは今、声をたくさん出したせいで喉が少しヒリヒリするという私のために、水を取りに行ってくれている。
────彼が戻って来たら、言わないといけないわね、このこと。
ある決心をしてから、今はスカートに被われている下腹部をそっと撫でてみた。

暫くすると、ガチャリと戸の開く音がした。
「瑠璃ちゃーん、平気?」
不安げな面持ちの圭輔さんが、グラスに入れた水を差し出してくれた。
「ありがと、圭輔さん」
それを受け取り、水で喉を潤わせる。

「あのね、圭輔さん・・・」
数口ほど水を飲み、普通に喋れるくらいの喉になってきたので、話を切り出してみる。
「どうかした?」
圭輔さんはいつも通りの余裕が取り戻せた様子だ、これなら話しても大丈夫そう。
「圭輔さん・・・さっき、ゴムつけていませんでした」
すると圭輔さんはとてつもなく慌てた、けれどどこか嬉しそうな、微妙な表情をする。
「・・・妊娠、するのかな」
そっと自身の下腹部を撫でながら、そう呟く。
すると、圭輔さんは私のことをそっと抱きしめてくれた。
「瑠璃ちゃんも、子供も、俺が責任持って幸せにする」
私からそっと離れると、圭輔さんはタンスをごそごそとまさぐりだした。
そして高級そうな小さな小箱を手にとり、こちらへ戻ってきた。
「結婚しよう。一生をかけて、藤野瑠璃を幸せにすると誓うから」
圭輔さんが小箱をあけると、中にはダイヤの指輪が入っていた。

────すごい、私がプロポーズ受けている。
あまりにも急な展開に、なかなか頭がついていかない。
けれど、私は迷うことなく左手を差し出した。
「はい、よろしくお願いします」
にこりと微笑むと、彼も微笑み返してくれて、指輪を左手の薬指にはめてくれた。

────幸せ、すごく幸せ。
言葉にすると、なんだかありきたりになってしまう。
でも私は、やっぱり幸せ。


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