フシギの世界へ

□第1話
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ピピピー、無機質な電子音がする。
その電子音は凜の携帯電話の音だった。携帯電話は凜の手に、開いたまま握られている。
音に気付き、凜は携帯電話の画面を確認する。
携帯電話はこの地に来る前に自分の部屋で開いていた、あの怪しげなメールにあったURLのページを表示していた。
そのページは部屋で見たときと変わらなかった。白い背景に黒い文字で「あなたを招待します」と書かれているだけの、ずいぶんとシンプルなページだ。
だが、ここに来る前と変わっているところもあった。
「あれ…スクロールできるようになってる」
画面が下へと続いているのだ。凜はポチポチとボタンを押しながら、画面を下へ下へとスクロールしていく。
するとそこには、新たに文字が書かれていた。凜はおそるおそる、その文字を読んでいく。
「えっと…『ようこそ、貴方はこの世界に招待されました。ごゆっくり、お楽しみ下さい。』…な、何これ!?」
凜は信じられないとでも言うかのように、素っ頓狂な声をあげる。
「私…帰れないの…?」
誰に問い掛けるでもなく、力無くそう呟く。
こんな右も左も分からないような世界に独り、誰だって不安になるに決まっている。
でも、ここにいるだけでは何の解決にもならない。
―――不安で仕方が無い。
これが今の凜の本音だ。でもこのままではいけない。
そう思い、元の世界へ帰るヒントだけでも見つけようと、ワラにでも縋る思いで今見下ろしている緑が多い、大きなお城のある町へと向かうことにした。
凜は足速に丘を降りていった。

意外と簡単に町には到着した。
華やかな市場ではいろんなものを売っている。綺麗な花のたくさんある花畑や、綺麗な花のなる木がたくさん植えられている。
凛の生まれ育った土地は「コンクリートアイランド」という言葉がよく似合う都会だったため、こんなに緑の多い町を見るのは初めてだった。
―――こういう土地も悪くないな、心が洗われる。
そんなことを考えながら、凜は町を歩き回る。

ずいぶんとにぎやかな町だ。町の人もたくさんいる。
だが、その町の人の姿がずいぶんと変わっている。
どこぞのおとぎ話にでも出てきそうなドレスやらスーツやらを着た人、ロールプレイングゲームにでもありそうな変わった形の服を着た人がたくさんいる。髪の色なんかも様々だ。
ただ、自分が町の人を変わっていると思うことと同じように、町の人も自分のことを「変わった子」と思っているようで、視線が少々痛い。
だが、そんなことを気にしている場合でもない。気分はあまり良くないが気にせず町を歩くことにする。
「お嬢さーん?」
呼び止められる声がした、だが声の主が何処にいるのか分からない。
凜がキョロキョロと辺りを見回していると「上だよ」と声がする。
上のほうを見ると、高めの塀に凜を見下ろすような格好で腰掛けた青年がいた。

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