フシギの世界へ

□第2話
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塀に腰掛けている青年は、凜よりも二歳ほど年上に見える。
その青年は塀からひょいと降り、凜と向かい合うように立つ。

整った顔立ちで、つり目の綺麗なグリーンの瞳。
短めの茶色い髪が首のあたりだけ少々長めに残されているのは、彼のお洒落だろうか。
青がモチーフのシンプルな服装は、なかなか彼に合っている。
この格好なら元の世界にいても不思議では無い。むしろ周りを女性に囲まれていても全然不自然では無いくらいに格好良い。
ただ…両足首につけられている、紫の宝石が目立つ少々派手な足輪が少しミスマッチに見える。
凜はその青年を見て、そんなことを考えていた。

「俺の名前はサイラ・アルシ。サイラでいいよ、よろしく」
にこりと微笑み、サイラは挨拶する。
「私は水野凜。よろしく、サイラ」
凜も相手につられてにこりと微笑み返す。
「えっと、私に何か用が…?」
サイラとは今さっき会ったばかりで自分に用事があるとは思えないが、話し掛けてきたということは何か用事でもあるのだろう。
そんなことを考えながら、凜はサイラの次の言葉を待つ。
「いや、なんだか不安そうな顔して歩いてるから…どうかしたのかなーって思ってさ」
サイラは凜のことを心配して、声をかけたらしい。
心配そうな顔をしながらサイラが凜を見る。
「…何かあったのか?」
ポリポリと頭をかきながら、サイラはそう続ける。

―――自分でも気付かなかった。今、自分がそんな顔をして歩いていたなんて―――
確かに今、すごく不安だった。一人で全く知らない場所を歩いているのだから。
だけど、そんな気持ちも外に出さずに自分の中でも平気と強がる、そんなことはいつもやっていることで、慣れているはずだった。
学校でも、何があってもいつも笑顔でいられた。
その能力は、おそらく両親が家にいなくてずっと一人だったことや、家のことが
忙しくて友達付き合いなんかも浅かったことで養われたのだと思う。
だからこそ、それを見抜いたサイラには驚きだった。
「…」
驚きで、サイラに何と返せばいいのか分からなく、凜は無言のまま固まってしまう。
「まあ、言いたくないのならそれでいーよ」
サイラは凜の考えていることを読み取るかのように、にこやかにそう言う。
そんなサイラの態度に安心し、固まっていた凜の表情もやわらかくなる。
「凜って、この町の人じゃ無かったりする?」
サイラの言うことは正しかったので、凜は「えぇ」と返事をし頷く。
「見たことない服装だからさー…」
凜の服装は、学校から帰ってきたままの格好だったので、制服のままである。
確かにこの町の人にとっては、凜が今着ている制服は確かに変わった服装なのかもしれない。
サイラの言葉に、凜は「でも、私の住んでいるところでは普通なのよ?」と返す。
するとサイラは「へぇー」と不思議そうな顔をして頷いていた。
するとふと、凜がポツリと今まで疑問に思っていたことを呟いた。
「あの…でもどうして、見ず知らずの私のこと、心配してくれるの?」
凜は少々下向き加減になりながらも、そうサイラに問う。
「うーん…何て言うかさぁ…ほおっておけないんだよ」
「え…」
サイラのいきなりの言葉に凜は唖然とする。
そしてサイラは、やわらかい表情で次の言葉を続ける。
「困った顔や寂しそうな顔をしている子をほおっておくなんてこと、俺にはできない」
サイラはにこやかに、凜にそう言った。

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