フシギの世界へ

□第3話
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サイラのいきなりの言葉に、凜は思わず固まってしまう。
「嘘じゃないぜ、これは俺の意思なんだ」
落ち着いた優しい声で、サイラは凜の頭をそっと撫でる。
サイラの手の感触が、なんだかとても心地良い。
「今から言うこと…おかしな話かもしれないけれど…聞いてくれる?」
凜がぽつりとつぶやく。サイラは大きく頷いた。

木でできている椅子は温かみがあり、座るとなぜか気分が落ち着く。
学校にある椅子も材質は確かに木だけれど、あれはまた別である。
洒落たティーカップに入った紅茶を一口飲み、凜は思い切ったかのように口を開く。
「私…たぶん、違う世界からきた人間なんだと思うの」
自分の身元のことなのに、断定ができない。
この世界に来てから分からないことだらけで、自分のことまであやふやなのだ。
そんなあやふやな凜の言葉に、サイラも困ったように首を傾げる。

だいぶ日が落ちて暗くなってきたので、今日のところはサイラの家に泊まらせてもらうことにした。
そして今、サイラとテーブルをはさみ、紅茶を飲みながら話しをしているところだった。

あの時、携帯電話で見たページに書いてあった“あなたはこの世界に招待されました”という言葉が本当ならば、おそらく自分は“自分のいた世界とは違う世界”に招待されたということだろう。
つまり自分は、違う世界にきてしまったということになる。
なのでこの世界の人にとって自分は“違う世界から来た人間”になるのだ。
こんな馬鹿げた話、有り得るわけがない。しかし今の現状では、この仮説が一番有力である。

「世界って…国とかじゃなくて、生きている次元って規模で違うの?」
サイラも凜の話しを飲み込んでくれたらしく、そう問う。
凜はそっと、その問いに頷いた。
おかしな子と思われて、ここを追い出される覚悟までした。
「似てる…いや、そっくりだ」
サイラの言葉の意味が分からず、凜は首を傾げる。
「そっくりって…?」
「昔からこの町には、あるおとぎ話が伝わっているんだ」
サイラの話に興味を示し、カタンと小さな音を立てて、凜は体を乗り出す。
元の世界へ帰るヒントが、その話の中にあるかもしれないからだ。
「どんな話なの?」
「小さい頃、親によく聞かせてもらっていた話なんだ。原文を読んだわけでは無いから、大体の話の流れくらいしか分からないけれどさ」
「それでも良い、聞かせて?」
少しでも帰るヒントを得たいと、凜はその話を聞かせてほしいとせがむ。

サイラはゆっくりと瞳を閉じ、そのおとぎ話を話し始めた。

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