フシギの世界へ

□第4話
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―――ある異世界から来た少女が、この世界に迷い込んでしまった。
その少女は、自分のいた元の世界へと帰ろうとする。
「自分のいた世界へ帰る」という一本の道だけを、少女は歩こうとしていた。
―――けれど、道はどんどんと増えていく。
一本だけでは無く、何本にも増えていく。
迷いながらも、惑わされながらも、少女は決断する。
『あの道』を歩こうと。
そして、その道を歩いていった少女は、幸せになりました。

「…ってな感じの話なんだけれどさ」
サイラは湯気の立つティーカップを持ちながら、そう話を締め括る。
「なんだか…ちっとも要領を得ない話ね」
凜が思ったことをそのまま口にすると、サイラも「確かにな」と苦笑しながらも同意する。
サイラの話してくれたここに伝わる昔話は、凜にとっては要領を得ない無責任な展開の話に聞こえた。

大体、終わりを“幸せになった”で締め括れば良い話になるわけでもない。
内容がここまで大雑把で抽象的では、ただの展開が目茶苦茶な話だ。
「でもさ、妙に物語りの主人公と凜が重なる気がしてさ」
付け足すようにサイラは話す。
「うん、確かに重なっている気もするけれど…」
今度は凜がサイラに同意する。
「だけれど…こんなに大雑把な話だけじゃあヒントにはならないわ。表現が抽象的過ぎて、目茶苦茶な話じゃない。…そもそも道って何?」
凜が一揆に話の不満点や疑問をサイラにぶつける。
しかし今のサイラには困ったように笑いながら「俺にも細かいことは分かんねーや」と言うことしかできなかった。
はっと気がつき、凜はすぐに「ごめんなさい」とサイラに謝罪の言葉を述べる。

───こっちの世界にきて分からないことだらけだったからといって、焦りすぎていた。
あまりに焦っていたとはいえ、せっかく親切に自分の帰れるヒントとなるだろう話をしてくれた人に
ずけずけと不満点やら疑問やらを無造作にぶつけて良い訳が無い。
申し訳なさそうに俯く凜に「気にすんなって」と優しく言いながら、サイラは凜の頭にそっと手をおく。
―――この手の感触…すごく落ち着いて、なんだか暖かい。
一人っ子だから分からないけれど、兄がいるとこんな感じなのかな…などと凜はぼーっと考えていた。

“帰らないと”と焦ってはいたけれど、もし帰ったとしても待っているのはつまらない日常ばかり…
それならば、少しでもこの非現実的な世界を楽しむのも…良いかもしれない。
少しだけ、凜の考え方が変化していることには、その張本人すら気付いていなかった。

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