フシギの世界へ

□第5話
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凜は今、ベットの脇にある電気スタンドの明かりだけしかない薄ぼんやりと明るいだけの部屋にいた。
一人ベットに腰掛けて、何を考えるでもなくボーッとする。
この部屋は、サイラの家にある客室である。


時間は数時間前に遡る。
「そうだな…じゃあ、明日広場へ向かおう」
手をポンとたたき、サイラが提案する。
「広場?」
凜が首を傾げる。広場と聞くと、だだっ広い草原以外は何も無くて…
できることといえば小さい子どもを連れて行きボール遊びをさせるくらいだ。

そういえば…よく小さい頃に親に連れられて遊びに行っていた記憶がある。
あの頃はまだ父とも母とも一緒に住んでいた。
―――今みたいに、一人ではなかった。

「そう、広場に情報収集に行くんだ」
サイラの声に凜ははっとする。
そうだ、さっきまで広場へ行くという話をしていたんだった。
でも…情報収集? 広場で?
「広場って、子どもなんかが遊ぶためのただ広いだけの土地じゃない」
凜が自分の思い描く“広場”について話す。
そうするとサイラは驚いた顔をする。
「いやさ、凜…広場って、街の中心部にあってさ、いろんな人が集まる社交場じゃないのか?」
「え? そうなの?」
この世界は、昼間も見た通り、自分のいた元の世界とはずいぶんと掛け離れているようだ。
こちらの常識は通用しそうにない。
「まあ…そうなんだよ。ってことで、明日は広場に行こうぜ」
「なっ?」と笑顔で促すサイラに凜はコクリと頷いた。
だけれど…凜は心配に思っていた点があったので、それをサイラへ尋ねる。
「その…サイラの家族は平気なの? 私のせいでいろいろと…家族のみなさんにも悪いんじゃ…」
「あぁ…俺は一人身だからさ。家族は結構前に亡くしたんだ」
サイラの言葉に、凜は唖然とする。なんと声をかければ良いのかも分からない。
「両親は俺が小さかった頃に亡くなってさ…妹と暮らしていたんだけれど、妹も去年に亡くした」
聞いてはいけないことを、自分は聞いてしまったようだ。
「ごめんなさい…そんなこと話させちゃって…」
うなだれる凜に「お前がヘコむことじゃないって」とサイラが優しく言ってくれる。
「そういえばさ…凜は俺ん家来る前に『どうして自分に優しくしてくれるの?』って尋ねただろ?」
「確かに聞いたわ」と凜は頷く。
「あれさ…お前が似てたからでもあるんだ、俺の妹に」
いきなりのことで、凜はどう返事をすれば良いのか分からなくなる。
「だからお前のこと…大切にしたいし、守りたい…」
ふと、サイラの顔が悲しそうになる。どうすれば良いのか分からなかったが、相手にこんな顔はさせたくない。
「そんな顔…しないで?」
凜にはそう言うことしかできなかった。けれどサイラは元気が出たらしく「ありがとな」と微笑んでくれた。

そしてもう遅い時間になってしまったから、二人は寝ることにした。
サイラが「部屋着に使ってくれ」と妹のお古であろうピンク色のネグリジェを差し出してくれた。
「悪いよ」と断ったが、サイラに「いいから使ってくれ」と言われたから、それに着替え客室に案内され、冒頭へと戻る。

―――今日はいろいろあり過ぎて疲れた。
腰掛けていたベットへ寝転び、そのまま意識を手放した。

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