フシギの世界へ

□第7話
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「私は水野凜。イース、フィサ、よろしくね」
にこりと微笑み凜は二人に挨拶する。
よくよく考えればここはとことん常識の通用しない世界だ。
これくらい変わった人が普通の街人なのだろう。そう割り切ってしまおう。
「凜姉ね! …ところで、凜姉は何が知りたいの?」
凜姉とは、おそらく親しみを込めての呼び方であろう。イースが興味深そうにそう尋ねてくる。
「ここに古くから伝わる物語のことなんだけれど…」
凜がそこまで言いかけるとフィサが「あぁ!」と何かを思い出したかのように手を叩く。
「俺、それ知ってるよ! 異世界から来た女の子が…ってやつだろ?」
得意げに言うフィサに「そうそう」と凜は相槌を打つ。
「ここに住む人にとっては常識だよ。得意げになるほどのことじゃないよ、フィサ」
冷静なイースの言葉に「そうだけどさー」とふてくされながらそっぽを向くフィサ。
見た目では明らかにイースよりもフィサのほうが年上に見える、だが実際のところ精神年齢の面はイースのほうが上かもしれない。
「それで、その物語がどうかしたの?」
イースが首を傾げてそう尋ねる。
「詳しい話が知りたいのよ…
その女の子は“いつ”“どこで”“どんな道を選んだか”ってね」
凜の言葉にフムフムと頷くフィサ。
「そういうことなら…イースがその物語の原文の内容を知ってるんじゃないか?」
フィサがイースに話をふる、イースは難しそうな顔をしている。
だがそんなイースを放ったらかしてフィサは話を続ける。
「実はイースってな…物凄い秀才なんだ!」
「へ…? すごく頭が良いってこと?」
ずいぶんと話の飛んだフィサの言葉に首を傾げる凜。
「そうなんだ! 何てったって…こいつ今12歳なんだけれど、19歳で受ける試験でオール満点とってんだ!
 知識から思考まで完璧なんだよ!」
若干興奮気味に話すフィサ、そしてその言葉に凜は唖然とする。
19歳って…つまり私よりも年上で受ける試験? …この歳で!?
凜はフィサの言葉がやっと理解できたらしい。目を輝かせながら「すっごーい!」と感嘆をあげている。
「勉強のためにこいつ、家を出て資料館が多いこの街に上京してきたってわけ!」
「今は俺ん家に居候しているんだ」とイースについてのことを
あたかも自分のことを話すような口調で話し続けるフィサ。
「はいはい…僕のことはいいから勝手に話を進めないでよ姉馬鹿の馬鹿力野郎」
イースが呆れたようにさらりととんでもない暴言をを口にする。
その暴言にも確かに驚いたが、凜にはそれ以上に気になる言葉があった。
「(姉馬鹿って…シスコンってこと!?…フィサが?)」
凜はまたしても唖然とする。
「って、姉馬鹿は言い過ぎだろ」
フィサは顔を赤くしながら抗議する。
「その服も自分の姉の趣味なんでしょ? その歳でシスコンなんてドン引きだよ」
またしても爆弾発言をするイース。
…無邪気なだけにその毒舌の数々が恐ろしい。
だがその発言のお陰でつじつまが合う。
「(だから服がかわいらしいのね)」
凜は心の中で納得する。
「話を元に戻すけれど…」
イースのその言葉にハッとしてイースのほうを向く二人。
その二人の様子を見て、イースは話し始めた。
「その物語はね、この街のほとんどの人が知っている…けれど同時に、すっごく
 古い話でもあるんだ。いつ書かれた話なのかも、誰が作者かも分からないくらいの」
イースが深刻そうに話す。けれど凜はそこまで深刻になる意味が分からない。
自分のいた世界にだって、作者の分からない話も書かれた時が曖昧な話もたくさんある。
「そんな話世の中にはたくさんあるわ、そこまで問題じゃないわよ」
自分の思ったことを話しの腰を折るようにズケズケと発言するのは自分の悪い癖だと思う。
しかも何処の馬の骨とも知らない相手に親切にしてくれている相手にしてしまうのでは尚更だ。
けれど、今はそんなことよりも元の世界に帰れる唯一の手懸かりである話の詳細のほうが気になる。
「それくらい古い話だから謎な点も多い…だから、その話を詳しく知る人も詳しい文献も無いに等しいくらい少ないってこと」
イースの言葉に凜はハッとする。確かに作者も書いた時代も曖昧な話の詳細というものを探すのは非常に困難だ。
「ど…どうしよう…」
困り果てたようにそんな言葉をもらす凜。
「まあまあ、話はまだ終わってないからさ」
にこりと微笑みそう告げるイースに向き直る凜。
「凜姉…“裏設定”って言葉、知ってる?」
真面目な顔で話すイースの言葉の意味が分からず、フィサは首を傾げる。
だが凜はそんなフィサとは対象的に話始める。
「裏設定って…その作品の裏にある本当の説…みたいな意味の?」
凜の言葉に「そうだよ」と頷くイース。
「…その物語にも裏設定があるんだ。
 それに凜姉の知りたい詳細っていうのは…おそらく裏設定にしか記録されていないと思う。」
「元々、その物語の表の話はそこまで詳しくないんだよ」イースは軽くウィンクしてみせる。
凜も大体の意味は分かり「そっか」と納得したようにコクコクと頷く。
「つまり、話の真相は裏設定が握っているのか!」
若干頭の悪そうな発言だがフィサの言うことはあながち間違ってはいない。
「けれど…問題はその裏設定の記されてた文献。裏設定の記されている文献等は
 …どこにあるか分からない、つまり闇に包まれているんだ。
 しかも裏設定なんてほとんどの人は存在自体知らないかな。
 さっきも言ったけれど、その物語についての文献なんかは表の話のも裏設定のほうも少ないんだ」
難しそうな顔をして話すイースの言葉を聞き、その言葉に何かを思い付いたのかフィサがポンと手を叩く。
「酒場だ! 酒場に行けば、そういう情報も分かるんじゃないか?」
「酒場…?」
酒場と言うからには…大人達が酒を飲み交わすあれのことだろうか?
凜は頭の上にクエスチョンマークを浮かべた。

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