フシギの世界へ

□第8話
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「酒場って…そんな危ないところに行かせるわけにはいかないでしょ」
フィサの言葉に呆れたようにため息をつくイース。
「酒場って…あのお酒を飲み交わすお店のこと?」
お酒を飲むだけなのに、そんなに危ないのかしら? と疑問に思い首を傾げる凜。
凜の問い掛けに「そんな感じ!」とフィサは頷く。
「表には出てこないような…裏の情報を集めるにはもってこい!」
先程のイースの言葉はほとんど聞いていなかったらしい、フィサは得意げに話し始める。
「たぶんその物語に詳しい人もいると思うよ!」
フィサの言葉に興味あり気に感嘆をあげる凜。
「その酒場って何処にあるの?」
凜の質問に「そこを曲がって…まっすぐ進めばあるよ!」とフィサは道を指差しながら教える。
「よしっ! じゃあ早速…」
フィサの説明した方向に凜は今にも走りだそうとする。
「待って!」
するとイースが走りだそうとした凜に後ろから抱き付いた。
「い、イース!?」
いきなりのイースの行動に驚きが隠せない凜。いくら相手が子どもと言っても、いきなり抱き付かれたらさすがに驚く。
「コラ! いきなり凜に抱き付くな!」
持ち前の怪力で、フィサは凜を自分のほうへと引き寄せて、イースから離れさせる。
今度はフィサの腕の中へといるかたちとなった凜。
「な、何よ急に!?」
いきなりの二人の行動にもはや頭がついていかない凜。顔が若干ほてるのを感じる。
とりあえず凜はフィサの胸板を押して抵抗を見せる。
名残り惜し気にフィサは凜を腕から解放する。
「だって…凜にくっついてるイースにムッとしたんだもん!」
「しょーがないだろ!?」との言葉も付け足しあくまで自己正当化をするフィサ。
「僕はただ凜姉をとめただけだよ。誰かさんみたいな下心ないもーん」
イースはフイッとそっぽを向いてしまった。
───―――とりあえず、二人とも子どもってことか。
心の中でそう納得しながら、凜はクスリと笑みをこぼす。
「二人とも、ありがとね」
にこり、微笑みを浮かべてそんなことを言う凜。それにイースもフィサもコンマ一秒で機嫌を直したらしい。
「でも凜姉…酒場は危険だよ? 本当に行くの?」
不安げな表情でそう尋ねるイース。
「ちょっと話を聞くだけだもの、平気よ」
そう言うと、凜は先程フィサの示した方向へと走りだした。
「り、凜姉!!」
「大丈夫よ! いろいろ教えてくれてありがとう!」
後ろを振り返り二人にそう叫ぶと、凜はそのまま酒場の方向へと走っていってしまった。


怪しげな雰囲気をかもちだす建物が目の前にあった。
看板には酒の絵が描かれている、おそらくここが“酒場”なのだろう。
一見ただのログハウスのようにも見える。
だが普通のログハウスと違い赤や黄色など目に痛い色を多用したデザインとなっていた。
しかも出入りしている人物達は、とてつもなく柄の悪そうな人達ばかりだ。
全員もれなく拳銃や短剣を常備している。
…イースの言っていた「危険」とはこういう意味だったのか。
確かに自分がイースの立場だったら、間違いなく相手をとめている。
だけれど…帰るための情報を入手するためだ!
サイラにも手間はかけさせたくないから…やはり自分で情報を入手するしかない!
一大決心をした凜は酒場の戸をあけて中に入った。

昼間のはずなのに中は薄ぐらかった、明かりも怪しげなライト数個だけだ。
そしてカウンターには武器を持つ明らかに危うい人達が腰を下ろしている。
カウンターの奥には見たこともない珍しい酒瓶が並んでいる。
戸の音をたてて店の中に入った瞬間、中にいる恐い人達の視線が刺さるようにこちらへと集中してくる。
「(な…なんかヤバそう…)」
凜の店内に入って最初に思ったことはそれだった。
すると、不意に後ろからガチャッという怪しげな音がする。
凜は恐る恐る後ろを振り返ってみた。
そこには拳銃を構える、赤褐色の髪を下で束ねた瓜二つの青年がいた。
二人は全く同じ顔だ、おそらく一卵生の双子なのだろう。
唯一見分けられるところとしては、片方は赤系統の服で、もう一方は青系統の服のところ。
そして青系統の服の方は髪に黒のピンをしているところだろうか。
「な…何ですか?」
恐怖でかすれかかった声でそう呟く凜。
「君…見かけない顔だよね」
赤系統の服の青年が言う。
「もしも危ない人だったら始末しちゃおうと思ってさ」
今度は青系統の服の青年が言う。


不敵に笑う二人に、凜は底知れない恐怖を覚えた。

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