※学生パラレル。永遠のわかれ。苦手な方はバックを。
星は、しんでしまった光だ。それなのになぜ、存在を教えるかのようにまたたくのだろう。星の色に恋をして、会いたくなった誰かがロケットに乗り込んだとしても。もう、宇宙のそこにはなにもないのに。
やさしい声だった。新品のボールが軽やかに跳ねるように駈けていた。笑うと目がなくなった。大きな口だった。
片手にすっぽりと隠れてしまうくらいに小柄だった。小さいと言うと怒った。お前と話す時は首が疲れる、背が高いからって調子に乗るなよ、とぼやいていた。
艶やかな髪だった。すこし硬い髪質ではあったけれど、あの手触りがいとしかった。
「なぁ、北見」
最後に手を繋いだのは、夏だった。俺はお前がもうすぐいなくなるなんて知らなかったから、暢気に残りの夏休みは何をしようかなんて考えていて。
「星って、しんでしまった光なんだよな」
「は? どうした、いきなり」
「いや、なんとなく」
お前はごろんと土手に寝転んで、空に手を伸ばした。なんとなく俺も隣に転がって空を見る。無数に散らばる星の中から、お前は教科書で習った星座を指差していく。夏の大三角形しか当たっていなかったがそんな間違いすら愛しい。
「なあ、北見」
「ん?」
「お前はさ、幸せになるよ」
「は?」
首だけをお前の方に向ける。いきなり何を言い出すのかと俺は幼い横顔を見つめた。大きな瞳は、眺めている星が落ちているのかと思うくらいに光をたたえていてきれいだった。
ひどく真剣な眼差しに俺はふいに声を失う。
「なぁ、忘れんなよ。一緒に星を眺めたこと」
「……お前、さっきから何を」
「星はしんでしまった光だけど、それは確かに星が生きていたって証を俺たちに残してるんだ」
「輝?」
ああ、どうしてずっと先の未来もお前がいると信じて疑わなかったのか。俺はバカな餓鬼だった。何も気付いてやれなかった。食欲の落ちていったお前の言い訳が夏バテだなんていう嘘を。日に日に透き通るように、透明になっていく肌に。あまり走らなくなった事に。
さようならも、言わずに。知ったのはすべてが終わってからだ。お前が煙になる。畜生。さようならなんか言えるわけがない。
さようならなんか、言えるとでも思ったのかよ馬鹿野郎。最後に手をつなぎながら見た空。ぬくもり。なにひとつ俺に告げないで、お前は。
うなだれる長い列。ちっぽけなフレームに納まる笑顔。白。黒。ああ、お前が少しずつ消えていく。焼けて、いく。
「柊一、手紙よ」
正直。俺は輝が完全に世界から消えてから何をしていたのか覚えていない。
泣いたのかもすら、わからない。
夢をみているのか、起きているのかも。まるで擦り硝子越しに、俺は世界を見ていた。お前との記憶をなぞって、お前がもういないことに、ただ絶望していた。
母親が差し出した手紙。殺風景な真っ白なそこにはミミズがのたくったような字がある。差出人の名を見て、俺の手が震えた。
輝。お前、ずるいよ。
こんな便箋一枚で別れを告げようだなんて。お前、一方的過ぎるんじゃねぇか。
なぁ、北見
俺、お前がこれ読む頃にはこの世にはいない
多分、お前は俺をずるいって怒るかもな
なんだろ、書きたいこと浮かばないや
怖いとか死にたくないとか、もっとお前といたいとか、いろんな所に行きたいとか
そんなこと、当たり前すぎて書いてみてバカらしくなるよほんと、参った
俺、死ぬときはお前と一緒に星を見たことを思い出しながら行くわ
そうすれば、怖くないから、きっと
なあ、北見
お前は幸せになるよ
なれよ、じゃなくて、なる、な
じゃあ、今まで楽しかった
ありがとう、マジでありがとう
さようなら
真東 輝
「っ、……ばっか、やろ、っお」
お前らしい汚い字の手紙。さようならと名前の間にうっすらと消し残しで滲んだ“愛してる”の文字。
きっとお前は、俺に気を使って消したんだろうがちゃっかり残ってんだよ俺だって“愛してる”よ。
お前はあの時にこう言いたかったんだろ? 星の光に例えて、ひとりで行く恐怖をこらえて生きた証はここにある、と。
やさしい声だった。新品のボールが軽やかに跳ねるように駈けていた。笑うと目がなくなった。大きな口だった。
片手にすっぽりと隠れてしまうくらいに小柄だった。小さいと言うと怒った。お前と話す時は首が疲れる、背が高いからって調子に乗るなよ、とぼやいていた。
艶やかな髪だった。すこし硬い髪質ではあったけれど、あの手触りがいとしかった。
そうだよ。間違いなくお前は生きていたよ。今だって繊細に。お前の仕草も言葉もぬくもりも声も思いだせる。俺の中で鮮やかに美し過ぎて息が止まりそうなほどに。
見上げた空。変わらぬ星。ただ、俺の手は、今からっぽだ。
それでも星の光は、生命の証を俺に焼き付けるようにまたたいている。
星がまたたく生命のふるえ
title by lis
20081106
北輝
“さようなら、だけど、愛してる”