□Partner Before Valentine
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「ただいまぁー」

ドサリと玄関に荷物を落とすと、遊戯はそこにぺたりと座りこんだ。

鼻をならす。ちょっといたい。
きっと真っ赤になってるんだろう。
鼻だけじゃない。
体の先っぽぜんぶがジンジンしてる。
爪先はもう痛さを超えてた。

いくらじいちゃんの頼みとはいえこの時期の商店街を一人で動き回るのはいろいろと辛い。
おかげで明日に迫ったイベントにキャッキャとはしゃぐ女子高生の間をすりぬけくぐり抜け、すごくいたたまれなかった。
しかも途中カツアゲにあった。未遂だったが。
捻り上げられた腕も打ち付けた腰もダルくてしかたない。
あれからボクどうしたんだっけ……。

男の一人に身体を投げられて、めちゃくちゃにコンクリートにぶつけられて、
それから首のパズルをとられそうになって
それから………。

……………。

………。

……ダメ。そこからまっくら。
それで、いつの間にか商店街から出たところにいた。
財布もパズルも無事どころか買い物も全部すんでて、両腕の紙袋が重かった。
こんなことが最近ままある。
以前なら盗られるだけとられてその場に転がされたまま置いてかれるだけだったのに……。

胸元をじっと見つめる。
手袋の上から触れてみた。
冷たさはなくてその硬さだけが伝わってくる。

たからもの。

ボクの。









あら、お帰りなさい。背中から声がかかる。
その声にまた、ただいまと返して「おなかすいた」とねだると着替えてきなさいと言われた。

「じーちゃんは?」
「ゲームか何かの集まりだかなんだかって出掛けてるわよ」

まったくいい歳して……。
本格的に母親の小言がはじまる前に遊戯は自分の用件だけ言うことにした。

「ねぇ、ママ、湿布どこ?」
「湿布?どこか痛めたの?」
「うん。まぁね」
「後で出しといてあげる」

ありがと。遊戯は応えて階段をのぼった。
一段ごとに腰がズキズキと響いた。

ああ、くそ。
バレンタインだとか、彼女だとか、非力だとか、ちびだとか。
くそっ。
自分がなさけけない。それにこわい。
ボクは誰だ。
武藤遊戯じゃないのかよ。



部屋のベッドの上に手袋もマフラーも投げ出してポフンとかぶさった。
枕をだきしめて、ふぅーと息をつく。
ころんと転がって、ズボンのポケットに違和感があった。

「なに……」

小さな箱。
指輪を入れるような。
よくドラマのプロポーズにあるアレの箱に似ていた。
正方形の深い藍色が限りなく白に近い細いピンクのリボンで飾られている。

「なにこれ……」

一度学校から帰ってきた時にはこんなものなかったはずだ。
とすればさっきのお使いの間ということになる。
しかし、遊戯にそんな覚えはない。
ひやりと青ざめる。
まさか、

「万引き………!?」

あの空白の時間に自分はそんな悪行をしていたのか。
愕然とした。
何も覚えていないなんて。
まさか今までもそうやって都合の悪いことを記憶から抹消していたのだろうか。怖い考えが浮かぶ。

「ほか!ほかにもないよね!?」

身体をまさぐる。
ズボンのポケットの裏地をひっぱりだしたり下着に手を突っ込んだりとセルフ身体検査だ。
ぱたぱたと手を身体にはわせて、学ランの胸ポケットからかさりと音がした。

「ん?」

取り出すと、一枚はどギツイピンクの広告チラシ。
ハートの枠の上に主張している濃い赤の文字がお決まりの文句を並べる。
もらったっけこんなの。
しかし商品でなくて少しホッとした。問題はもう一枚だ。

そっけないふたつ折りのメモ用紙。
どこにでもありそうな無地のもの。
何気なくひらく。

 
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