□今日からうさぎ
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ついてねぇな。

俺はため息をもらした。




予想外にバイトが早く終わって、家の布団恋しさにまっすぐ帰路についた。
最近バイト詰めで寝不足だ。
早くと言っても辺りは既に闇に覆われていて、都会の空には星も見えない。
裏路地は外灯もぽつりぽつりしかないもんだから暗さが更に際立った。
舗装されてない道はでこぼこしてるし、引越して半年近く経った今でも足元は覚束ずにいた。

ポツリ…
 ポツリ…

―――ザァッ…

そして突然の豪雨。
家まであと10分って微妙なとこで。
道の脇は生い茂った木々やさら地ばかりで雨宿りは望めそうにない。
仕方なく着ていたジャケットを頭から被って水捌けの悪い道を走ってく。
冷たさの滲むこの時期の雨は急激に俺の体温を奪った。
まだ天気予報でも見ていたら傘の一本でも持って出掛けたかもしれないが、あいにく俺ん家にテレビなんてもんがあるはずない。ぬかるみに足を捕られつつ、ジーンズに泥を引っかけながらアパートまで辿り着くと、いつもの切れかけた電灯の下、階段の前に何かがあることに気が付いた。


……なんだ?


どうやらダンボールらしいが、なかなかの大きさだ。
またここの住人がヘンなもん持ってきたのか。
なんせ都心部に近いながら俺みたいな貧乏学生でも借りられるボロアパートだ。
それだけになかなか変な奴らが居着いてたりする。
とりあえずどけとくか。
邪魔だし。そうダンボールを掴もうと近づいて腰をかがめた時、閉じた箱の側面に張られた紙があった。
雨に濡れてマジックが流れ多少読みにくくなっているが、俺の読み違いでなければ確かに、「拾ってください」の文字。

……これはつまり、そういうことだよな。

俺はため息をつく。
なんたってこんなとこに。置いてくにしてももっと他に場所があるだろ。
やるせねぇ。なんか。

湿ってくたびれたダンボールに手をかける。犬か猫か。この大きさからすると犬か。
――飼えっかな。
自分のとこじゃ無理でもバイト先や知り合いをあたる手もある。
どのみちもう放っておけないのだ。
しかし先程から箱はピクリともしない。
まさか相当弱ってんのか。急いでたたまれた蓋を開く。



薄く覗いた隙間から、顔が見えた。


え?と思う。




「………!!!」




ベシャ。どろどろの地面に尻をつく。





にんげんの、かお が みえた。


一気に青ざめる。ちかちかする電灯や降り続ける雨もどこかにいってしまった。
心臓がバクバクして、冷えた身体がさらに凍る。
それから時が止まったように何も受け入れなかった耳に、雷の轟きが揺さぶった。
ハッとして、ようやく息を吐くと覚悟を決めた。
そろそろと近付き恐る恐る蓋を広げる。
そこにはやはり人間の顔がみえた。
が、


「み、み……?」


その頭にはピンと立った兎の耳がついていた。


 
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