□Partner Before Valentine
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疑問。


バレンタインって何だ。





クリスマスがすぎ正月がすぎ、めぼしい行事なんて過ぎ去っただろうにもう次のイベントが始まるらしい。
閑散としていた商店街にはやけに桃色や赤色の広告チラシが目立ちはじめ、とくに女性が沸きたっている。
派手なものは好ましいと思う。
けど、騒がしいのは好きじゃない。

………恐らく。


自分の趣向さえ自信がもてないのは自らの存在が不自然だからだ。
気がついたらここにいた。
ここ――武藤遊戯という少年の体――に。
でも、これの目を通して世界を見て、この躯によって世界に触れている以上、自分は"武藤遊戯"で間違いないのだろう。
でなければ二人の人間がひとつの人体を共有することなどできないはずだ。

だから自分は"武藤 遊戯"だ。


毛糸の手袋につつまれた拳で制服の詰め襟をたぐり寄せる。
ギュウと力を入れれば分厚いマフラーがいくらも巻かれた首が息苦しかった。
右腕の紙袋を持ちかえる。

腰が重い。
先程妙な輩にまき込まれたせいで買い物の段取りが遅れている。
祖父から頼まれた買い物リストにはハガキほどの大きさの紙にずらりと注文が並んでいた。
すべて買うにはそれなり時間と額がかかるだろう。
そこを狙われた。
リストを見ながら商店街をぽてぽてと走りまわる姿は夕時にお使いを頼まれた小学生にしか見えないのだ。
横道に入ったあたりでいきなり3人の男達に囲まれた。
まだ若く、大学生くらいだった。
腕をギリギリと捻りあげられて、ポケットの財布を抜きとられ身を投げ出された。
それだけならまだいつものようにやり過ごせたものを、こいつに手を伸ばすから――。
胸元に輝く金のパズル。

途端カッと光が瞬いたかと思うと自分が世界に出ていた。
今頃は闇の扉の向こうで醒めることのない夢を見ていることだろう。


―――こいつには、触れさせない。


パズルの下がる縄目を指でたどる。
ぶくぶくした毛糸の上からじゃその感触を愉しむことは出来なかった。
向こうの自分はまだ起きそうにない。

……手袋を、外してもいいだろうか。

後で、かじかんで痛い思いをするかもしれないが、今はひやりと静かに凍る安心感が欲しかった。
するすると指を抜く。
蒸れた指先から針金で縛り上げられるような痛みがジンと迫ってくる。
パズルに触れればすでに冷たさの許容量を超えて感触があるだけだ。

―――よかった……。

自分の依り辺がここにある。
「あれ」が組み上げた自分の居場所が。
眼の紋様をなぞれば自らの皮膚の裏っ側を撫でられるような疼きさえあった。

その慶びを確かに留めて、また元のとおり指を納める。
防寒としての機能は果たすものの、鍋つかみのようなその見栄えは自分の好むものではない。
薄い青色に大きな星の模様が甲にひとつ。
自身の夜着と揃いの柄は幼い見かけをさらに助長するものだろうに。

 
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