□Summer in Vanilla
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とろり。


とけてしまいそうな。



ジーワジーワやらビィィィィンやらが耳の中に渦をまいて、日本の風物詩と言われるそれはどこか遠く、遊戯はただ天井のシミを見続けていた。
太陽の熱と自らの体温に匂いたつ部屋。薄明るく照らされた壁が盛りの太陽から障子ごしに落書きされて、微かに指を動かせば背中と同様ざりざりと鳴る爪。
自分の身体からふつふつと水分が抜け出ては服や髪に張り付いていくその不快さに、ごろりと寝返りを打った拍子、生温い空気が気管支へと続いた。独特の匂いが鼻孔から喉につたえば、枕がわりの二つ折した座布団に額をつけて、むっとするそれにもう一度息をつく。

きらいな匂いじゃない。

日に焼ける座敷は自分には珍しいものの筈がどこか懐かしさを感じさせる。それとも、懐かしがっているのはここの住人の残り香、だろうか。

額の汗がつうと流れて、ぽたりと座布団にしみをつくった。

















からり。
縁側の障子が開き、目だけ上げれば背中に陽を受け真っ白に輝く格子紙と、背の高い男のシルエット。
「ごめんね、もうすぐ電気屋くるから」
そう言って御伽はするりと遊戯の足元にまわり、脚の短いテーブルに盆を置いた。
どうやらブレーカは助かるらしい。
それに返事とも言えないうめき声を出して起き上がる。すると男がくすりと笑い、ゆるやかに細い指先に、張り付いた額の髪をはらわれた。
その身体は指の先の、爪のいちいちさえ繊細に出来ているようだった。
そのまま指の背が頬を撫でていくのに、べたつく感触に申し訳なくなってしまう。眉をしかめればどう汲んだのか、ふいとそれは離れていった。
「畳の痕、ついてるよ」
アイス持ってきたんだ。
涼しげな声からは別段伺うこともなく、遊戯は背中に留まる太陽に焦れながら、元気にありがとうと返した。

 
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