□Partner Before Valentine
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一息に白い靄を吐き出すと、夕ごろの雑踏に足を踏み出した。

目に痛い広告が店先に並ぶ。
あれもそういえば、ここ数日浮足立っていた。
幼なじみの同級生を妙に意識しているのが伝わってくる。
それと共に諦観も。
例年の経験が自分の背中を丸めさせて足元しか見せないようにしているのだ。

―――馬鹿だな。

自分ならば受け身を取ったりしない。
照準を合わせて相手の出方を見、攻撃で畳み掛ける。
熱をはらむ闘いだからこそ冷静な目が必要になるのだ。

そこでふと足が止まる。


―――冷静な?


首の縄を掴み寄せる。
商店街の明かり取りの天窓から蒼から藍にたなびく夕焼けがそそいでパズルの輪郭を浮き出す。

―――自分は常に冷静を欠いていないだろうか。

あれの意識を自分が凌駕するとき。
あれが傷つけられたとき。
あれの組んだパズルに触れられたとき。
自分は常に怒りで満ちている。
もちろんその怒りはあれの怒りでもある。
自分一人が激昂しているのではないのだ。
だが、あれは自分自身のために怒りを向けることは少ない。
犠牲精神の豊富さは、暴力を嫌う優しさと自らを卑下する諦めだ。
だから人のために立ち向かう。
そこが違う。

自分はあれのためにこそ刃を向けているのだ。


――――矛盾してる。

自分が武藤遊戯であるなら、あれも武藤遊戯であるのに。
おかしい。
自分であるが自分でない存在。
自分を守ろうとしておかしいことはない。
けど、じゃあなぜ、あれは自分に気付かない。
あれの考えていることが自分にはわかり、なぜあいつには届かない。

無意識にパズルを握りしめていた。
手袋をとおして伝わる硬さは何も変わっていなかった。

これは誰だ。




ガサガサと紙袋が乾いた音をたてる。

あとはこの先にある大型スーパーですべて揃うだろう。
急がなければあれが夕食に間に合わない。
人波を小走りで駆け抜ける。
キツイ桃色と放課後の学生の甲高い声。

自分はここにいるだろうか。

存在の不確かはあれが自分を知らないから。

俺はここにいるのに。














いきなり目の前ににゅっと腕が出てきた。
多少の驚きに目を見張る。

「バレンタインフェアやってまーす。いかがですかぁー?」

白と桃色の薄いコートの女性が店頭呼び込みに笑顔をまく。
勢いで受け取ってしまったチラシには紅の文字が情熱的に踊っていた。


 
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