□きんいろせかい
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「ゆーぎ……」
なに泣きそうな顔してるの。入れ代わった遊戯が覗き込む。それに更に眉を垂れて、赤い髪をわしゃわしゃと掻きなぜる。
「わ、わ、」戸惑う遊戯に構わず続けていると怒鳴られてしまった。赤い顔をして子供扱いしないでよって、それが自分をよけいに幼く見せるのを知らない。
ひとしきり文句を言って、まだ頬を膨らませたまま立ち上がる遊戯に城之内が両手を差し出す。
「ん」
「……もう」
ぎゅうと繋がり合う手の平に触れて、ようやく腰をあげる。引かれる反動のままにその小さな身体を抱き上げると、わぁと素直に歓声をあげた。
「……ひろーい、向こうの端まで家が見えるぜー!」
すごいすごいと叫ぶに姿に苦笑すると、遊戯がふと首に抱き着いてきた。
「たいようの匂いがする」
目の前いっぱいに広がる青い空に城之内は目をつむった。あまい匂いだけが世界にひとつ確かになる。
「遊戯」
「ウン?」
「遊戯が好きか?」
もう一人の、とは言わずともわかるだろう。そっと温もる身体を離すと、きょとんとした子供がいた。
そっくりだな、お前ら。
その顔がじわじわと崩れて満面の笑みになるのに、城之内はなんとも言えず胸の内が切なくなって、嬉しいとも哀しいともわからなくなる。
代わりにしっかりとその身体を抱きしめて、心の中で何度も叫んだ。
そうして小さな手が何度も頭を撫でていくのに、「子供みたいだよ、城之内くん」という言葉が頭に響いて離れない。
どうして子供じゃいられないんだろう。ずっとこうしていられれば、何も考えずにいられるのに。
城之内が顔を埋める薄い胸に、じゃらりと音がして目を開く。きらきらと輝くそれに宿るもの。自分が見たあの見知らぬ男が誰か、本当はわかっていた。知らないけれど、わかっていた。
遊戯が帰ろうと誘って、それを合図に抱き抱えたままの体を下ろすと手を差し出される。
「ほら」
しょうがないなぁ。そういって苦笑いしているはずの遊戯が逆光に包まれて、目の前がチカリと見えなくなる。シルエットだけが浮かぶ姿に、どちらともつかない二人が浮かんだ。

――オレもだ、遊戯。オレも。

ゆっくりとその手を掴むと、離すまいと力をこめる。歩き出した背中に陽を受けながら、ゲーセンでも行こっかと言う遊戯に、城之内もおうと返した。そういやこの会話昨日もしたよなって、笑い合った。


屋上には風が吹いて、空が青くて、太陽が射して、町がみえる。
そうしてただ、自分達がいるだけだった。




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