L×月(短編集2)

□赤止まれ
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竜崎とケンカして部屋を飛び出しだのはつい先程。



春先ではあるが、ひんやりとした空気はまだまだ寒い。



『上着、着てくれば良かったな・・・』



僕は両腕で自分を抱き締めると、大空に向かってため息をついた。



息は白くなって空に溶ける。



どんよりした雲に覆われている空は、とても汚く見えて、世界の全てが澱んで見えた。



殴られた頬がズキズキと悲鳴を上げる。



『竜崎のバカ・・・』



ポツリと呟いた独り言は、誰に聞かれる事も無く空気に溶けた。



ぼーっと歩いてると、ドンっと人とぶつかった。



『あっ、すいません。』



僕は素直に謝罪し、その場を去ろうとした。



『痛てえな、どこ見て歩いてるんだよ。』



僕はいきなり胸ぐらを掴まれた。



『んっ・・・』



軽く当たっただけだし、謝罪もした。



しかし、僕の3倍は太いと思われる腕は、僕の胸ぐらから外される所か、ギリギリと絞められる一方だ。



竜崎といい、この男といい、今日はケンカばかりだ。



抵抗しない僕に気持ち悪く思ったのか、いきなり掴まれたまま思い切り殴られた。



竜崎に殴られた反対の頬が赤く腫れ上がる。



歯を食いしばっていなかったせいか、口の中がキレて口唇の端から血が流れた。



僕はケンカを殆どした事が無い。



竜崎とは何度かケンカしたが、それ以外の人とは一度も無かった。



竜崎に殴られた頬より、目の前の人に殴られた頬の方が痛い。



竜崎にも勝てない僕は、目の前の人に勝てる筈が無い。



僕はどうしてこんなに無力なんだろう。



再度振り下ろされる拳に、僕は静かに瞳を閉じた。



殴るなり蹴るなり好きにすれば良い・・・



諦めかけたその時、急に強い力で抱き締められる。



『りゅう…ざき…??』



竜崎は僕を庇うように抱き締めると、目の前の人目掛けて蹴りを一発食らわせた。



大きな巨体がドサッと地面に倒れ込む。



ぼんやりその光景を見てると、



『何してるんですか??帰りますよ。』



と、腕を引っ張られた。



つづく


暗い(汗)
なんだか根暗な話を書きたくなりました。
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