L×月(長編)

□優しさ
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あれからと言うもの、月くんは少し塞ぎがちになった。



食事は取ってくれるものの、口数はまた少なくなり、部屋は静かだ。



一生懸命、明るく振る舞おうとする月くんに涙が出そうになる。



まぁ、時間が薬だ。



ゆっくり忘れてもらって、明るい月くんに戻ってもらったら良い。



私は、パチパチとキーボードを叩きながら、仕事を再開した。



月くんはソファーに座り、花瓶の花を見つめている。


横顔の線が益々細くなり、中性的な表情が強くなった。



少し伸びた髪の毛から見える横顔は、
有名な画家が描いた絵画のように、現実味が無かった。



『りゅう…』



突然、月くんが口を開いた。



『どうしました??』



私は、椅子からソファーへ移動すると、月くんを優しく抱き締めた。



『僕、竜崎の役に立ちたいんだ。お手伝いさせて…』


『でも…月くんの体調が思わしくないので、あんまり無理はさせたく無いんです。』



私が、困ったように答えると、



『このままじゃ、りゅうに嫌われちゃう…』



ジワッと涙を浮かべる月くんに、どうしたら良いかと考える。



月くんが、仕事が出来ないからと言って特に困る事は何一つ無い。



しかし、月くんにとってそれは、負担をかけてると思ってしまうんだろう。



『では、朝と昼と午後3時に、私に紅茶を淹れてもらえませんか?
月くんの仕事にします。どうですか?』



月くんは少し考えると、



『僕が淹れた紅茶で良いの??』



と不思議そうに聞いてきた。



『はい。私にとってのブレイクタイムは大切です。月くんにそれを任せたいんですが、良いですか?』



『うん!僕に任せて。』



月くんは嬉しそうに笑った。



少しでも私の役に立ちたいと思う気持ち、それだけで十分だ。



なんだか心に明かりが灯ったような気がした。



今の月くんには、探偵の仕事は厳しいだろう。



殺人事件や行方不明、未だにキラと言う単語も出てくる。
現場でのグロテスクな写真などを見せる気にはなれなかった。



『もうすぐ3時だから、紅茶の用意してくるね。』



月くんは、ゆっくり立ち上がるとキッチンに消えて行った。



これ以上月くんには、そういう世界とは関わらせたく無かった。



つづく
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