色々

□不器用な二人
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彼の周りにはいつも人が集まる。

彼が笑うと皆が笑い、彼が怒ると場が凍る。

彼の全ては人の心を動かす。


私も動かされた一人だ。

しかし『その他大勢』の私は彼の目に止まらない。

自分から行動しなければ、会話すら出来ない。


重い腰を上げ、震える足で彼の元へ向かう。

彼を取り囲む人垣をかき分けて背後に立つと、喉から精一杯の声を絞り出す。


「…メロ」

少し声が震えてしまった。

「なに?ニア?」

机に座って談笑していたメロは、私の方に振り返り首を傾げる。


憧れのメロが私の目を見て、名前を呼ぶ。
それだけで、うるさく打つ鼓動。
頭が真っ白になる。
言葉が続かない。

「どうしたんだよ?」

メロは黙り込む私の顔を、身を屈め覗き込む様に伺う。

「メロ〜、もう庭に行こうぜ〜」

メロを囲む誰かが言う。

「先行ってろよ」

メロが私を覗き込んだまま煩わしそうに言い、手をヒラヒラと振る。

「ニア?どした?」

その手で私の頬に触れ、優しく撫でた。

ビクッと肩が震えた。
恐らくメロはリラックスさせる為にその行為をしたのであろうが、逆効果だ。

更に俯いてしまった。

「ニア何だよ〜」
「早く言えよな〜」
「昼休み終わっちゃうよ」

メロを独占している私に周りの人達から不満の声が上がる。

私は何故だかメロの周りの人達に嫌われている様な気がする。


「うるせぇよ!!お前ら先に行ってろよ!」

机から立ち上がり、周りの人達を蹴散らす様な動作をするメロ。


「ニア、どした?」

再び私に向き直り、尋ねる。

「…何でもありません」

やっとの思いで無意味な言葉を絞り出す。

「ニア?どうしたんだよ?」

私の肩に手を乗せ心配そうに伺うメロ。

「……」

メロがこんなに近くに居るだけで、私を見てくれているだけで、私は何も出来なくなる。

「…本当に何もないの?」

メロの問いに頷く事しか出来ない。

「そっか…」

私の肩から離れていく手。

名残惜しくて顔を上げると、メロの端正な顔が間近にあった。

「じゃー‥またな」

メロは私の頬を優しく摘むと、ニッと綺麗に笑い私に背を向け歩いていった。


「あ、待ってよメロ〜!」

すぐにまたメロの周りを囲む様に人垣が出来た為、姿は見えなくなったが、私はずっとメロの去った方向を見つめていた。
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