L×キラ(短編集)
□電車
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『うん…。平気…うわっ…』
急に角度を曲げながら、走る電車に体が傾く。
ギュウっと人の波が押し寄せてくる。
『ンッ…苦しっ。りゅう…?』
突然流河が、僕の前に庇うように立って、人の波が来ないようにしてくれた。
目の前には、僕の顔の両サイドに手を付いて、仁王立ちしている流河が居る。
『大丈夫ですか?』
『うん…ありがと。』
流河が人の波から守ってくれたおかげで、首筋に掛かる男の人の吐息から救われた。
『僕、次の駅で降りたい。』
『はい、そうしましょう。月くんの顔色があまり優れませんし。』
『うん。』
すると突然、キュキューと、電車の急ブレーキが掛かる。
僕はバランスを崩して、流河に倒れこんでしまった。
『月くん大丈夫ですか?』
力強い流河の腕に支えられ、倒れるのは免れた。
『ごめんっ…。』
流河って意外に力あるんだ・・・
ふとそんな事を考えていたが、僕が流河に倒れ込んだ事で、密着する二人の体。
首筋に掛かる流河の吐息。
僕はビクッと体を震わせた。
『月くん、すいません。苦しくないですか?身動きが取れないんです。』
『大丈夫、平気。』
さっき、知らない男の人の吐息が首筋に掛かった時は、気持ち悪くて仕方なかったのに、
不思議と流河の吐息は気持ち悪くなかった。
むしろ、守るように僕を気遣う流河に、安心感まで湧いてくる。
それにしても中々、電車が動かない。
するとアナウンスが流れた。
[線路に不審な物が置かれており、調査中です。暫くお待ち下さい。]
えっ…暫くってどのくらいだろう。
もうすぐ降りれると思っていた僕は、一気に疲労感に包まれる。
僕は膝からガクッと力が抜けた。
それに気付いて流河が、慌てて僕の腰に腕を回して支えてくれた。
『大丈夫ですか?気持ち悪いですか?』
僕は流河の肩に頭を置きながら、小さく頷いた。
流河は爪をガジガジ噛むと、
『もうすぐ動くと思いますから頑張って下さい。』
と、頭を撫でられた。
流河に支えてもらい、やっと立ってられる。
こんな事になるなんて・・・
つづく
人の多さに酔ってしまったキラ。