fairy story
□テイクアウト
2ページ/11ページ
01.飛んだ小鳥が墜ちる末
「ねえラグナロク、空を飛んでみたいって思ったことない?」
窓際で外を眺めていたクロナが、楽しそうな声色でそんなことを聞いてきた。
クロナの頭の上でうとうと昼寝をしていた俺は、思わずはあ?と上擦った声をあげてしまった。
「空?急に何だよ?」
「何となく、あの鳥を見てたらさ…」
と、クロナが細い指で指す方向を俺も見やると、白い鳥が青空の中をすぅ〜…と飛んで行くのが見えた。
「そんなに空飛びたいならあの鳥に乗っけてもらえよ」
「いや、そういうんじゃなくて…その…あんな風になれたら気持ち良いだろうなーと…」
うじうじ。
全くこいつはいつもこうだ。
別に自分のしたいことを言ったって罪になりゃしないのに、中途半端なところでうやむやにしようとする。
「あ?どっちなんだよはっきりしやがれ!!」
「あ、ぐりぐりしないでよ…痛いって…」
俺を起こしたときのクロナは何処へやら、何時ものごとく猫背気味な姿勢で下を向いてしまった。
昼寝を邪魔された俺としてはもっと小突きたい気分だったが、
…こうも天気が良いとそんな気も失せてしまう。
「…お前がもっと魂を俺に食わせてくれんなら、俺ももっとでかくなって飛べるようになるかもな」
再び窓の外を見ていたクロナが、本当?と嬉しそうにこちらを振り返る。
……余計なこと言ったなと思いつつ、それはお前次第だろ、と頭をつついた。
魂を集めるってのがどういうことか、こいつはまだ良く分かっていない。
俺が知ったことじゃないが、大変な目に合うに決まっているだろう。何せ大量の善人を殺すんだから…
こいつはこれからどんどん墜ちていく。生まれてきた時からの運命だ。でも俺にはどうしようもない。優しい言葉をかけてやるような義理もない。
ちょっかい出すくらいが関の山だ。それもクロナにとっては迷惑かもしれないが。
「飛べるようになる頃には僕も大きくなってるかな。そしたら重くなっちゃうね」
「知るか。それにお前なんかいくらでかくなっても俺にはかなわねえよ」
青い空。吹き抜ける風の音。
どんなに粗雑な俺でも、思わず穏やかな気持ちになっちまう時間。
こいつがどこまで墜ちていくのか、救いが来るのか来ないのか、墜ち行く末が何処なのか…
先のことは全く分からないが、せめて其所がこんな空が見えるような場所ならいい…
遠い遠い青を見ながら、そう思った。
(うさぎちゃん殺害以前の二人です。ラグナロク視点。)