ギロロ君の初恋日記

□試験
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教室の中央にかかった時計は始
業開始のチャイムがなるまであ
と五分という時間をさしていた
が、ケロロとゼロロの机は空の
ままだった。この数日間と同じ
く、ケロロはチャイムと同時に
教室に駆け込んできたが、ゼロ
ロの席は担任の指導教官が現れ
ても主のいないままだった。ケ
ロロはカバンの中身を出しなが
らゼロロがいない机をちらりと
みやっていたが、教壇から教官
が全員に告げるように「今日ゼ
ロロは欠席だ、熱を出したらし
い」というと頭を抱えて小声で
「あちゃ〜」と呟いていた。


――また宿題写させて
もらおうと思ってたのか?


話すきっかけになる、と思いギ
ロロは思い切って、この数日言
葉を交わしていなかったケロロ
に声をかける。


「宿題やってないのか?
ケロロ」


ギロロの声かけにケロロは息を
つめ、一瞬目を見開いて怯えた
ような目をするが、すぐに視線
をそらして「いや、今日は……
やってる……」と小さく言って
俯いた。いつものケロロのよう
な答え方ではなかったが、無視
するわけでもなく、怒っている
ような気配もない、との感触を
得たギロロは意を決して、しっ
かりとした口調でケロロに話し
かける。


「ケロロ」

「え?」

「今日は一緒に帰ろう」

「……」


無言のまま俯いているケロロに
ギロロはもう一度言う。


「一緒に帰ろうぜ、ケロロ」


ケロロはやはり俯いたまま、消
え入りそうな声で「……う、う
ん……」とだけ答えた。






それから放課後まで短かったの
か長かったのかもよくわからな
い。授業の内容に関しては全然
覚えていないし、給食で何を食
べたかもわからない――、ケロ
ロがどうしていたかさえわから
なかった。ただただ今日こそは
ケロロと一緒に帰ってあのこと
を伝えるのだ、ということでギ
ロロの頭の中はいっぱいだった


終礼が終わると訓練生たちはそ
れぞれ荷物をまとめて帰り始め
教室は次第にまばらになってい
く。ギロロはのろのろと帰り支
度をしているケロロを待ってい
たが、あんまり遅いので胸によ
ぎった小さな不安を口に出す。


「ケロロ……
俺と帰るのイヤなのか?」


ケロロはびくっとしてギロロの
ほうをみると慌ててドサドサと
教科書をカバンにほり込み、
「そ、そじゃないって」といっ
てから、「ごめっ、お待たせ。
帰ろ!」とカバンを背負った。




二人並んでいつもの道を歩く。
ほんの数日前まではふざけあい
大声で喋りながら帰っていた道
を今日はひたすら無言のまま歩
き続けていた。ケロロはカバン
を握り締めたままずっと俯いて
いて、ギロロは一点を見つめた
ままただ黙々と歩いている。な
んだかよくわからない緊迫感に
ケロロはもう限界だと音を上げ
てしまいそうになったときにふ
いにギロロは立ち止まった。


「ケロロ」


「は、はいっ!」ケロロは上ずった声で返事をする。


「……怒ってるのか?
あの…あのときのこと……」


思いつめたように尋ねるギロロ
の問いをケロロはすぐさま否定
しようとしたが胸が詰まって声
がでなかった。
ギロロは前をみつめたままはっ
きりという。


「怒ってるなら謝る!
ごめん……
だけどオレは……」

「違う!!」


拳を握り締めふるふる震えなが
らケロロは叫んだ。


「え……」

「怒ってないっ!」


目をつぶって歯を食いしばるよ
うにしてケロロは言葉を発する


「怒ってなんか……
 全然ないっ!
 ……ただ、オレ、
  ヘンだから……
なんかすっごく
 ヘンな感じで……
 ギロロといると
 へんてこ過ぎて
 おかしくなっちゃうから……
 ごめん!オレ……
 おかしいんだ!」


ケロロは泣きそうな目をして堰
を切ったように言葉を続ける。


「あんときだって……
 すごくヘンな気分に
 なっちゃって……
 頭ン中もやもやするし、
 体は熱くなってくるし……
 ヘンなとこが……その……
 なんかヘンになるし……
 なんか……なんか……
 おかしいから!ヘンだから!
 ギロロにヘンなとこ
 みられたくないし!
 だからオレ……」


大きな黒い瞳からボロボロと零
れる涙を赤い手が拭い、「なん
で泣くんだよ、バカ」と呟く。

「だって……だって……」とし
ゃくりあげるケロロをギロロは
抱き寄せる。

――ケロロが『ヘン』だ
  と言ったのは
  自分のことだったのか……


「だめだって!
 オレ……また
 ヘンになる……」


もがくケロロをギロロは腕の中
に閉じ込め、少し笑って耳元で
囁く。


「オレもヘンなんだ」

「………………」

「お前よりヘンかもしれない」

「…………ギロロ……」

「お前のことが好きだから」

「え?」

「スゴク好きで
 どうしようもないから…さ、
 だから……」


ギロロはケロロの両肩を掴み黒
い瞳をまっすぐ見つめる。


「オレはお前と一緒にいたいし
 お前に触れたいし
 お前にキスしたい――

 お前にキスしたら
 オレもヘンになるけど……
 でもそれはスゴク嬉しくて
 幸せなきもちなんだ……
 オレにとっては

 ……それって……
 いけないことなのかな?

 オレ……

 お前のことが好きだと……
 ダメかな……?」


ケロロの瞳から再びぽろぽろと
涙が零れる。

「……ダメ……じゃない……」


声を出すのもやっとなぐらい、
ケロロの胸は狂おしさでいっぱ
いだった。


――そか……

「オレ……」

――ヘンだったのは……
  きっと……

「オレも……」

――ギロロのことが……

「……好き……だから……」




――キスされたいな……って
  思った

――声に出してない
  はずなのに……

――なんでギロロは
  わかったんだろ?





「やっぱりヘンになる……」

唇が少し離れたときにケロロは
つぶやく。
少し困ったような顔をするギロ
ロの首にケロロは両腕を回した



「でも……なんか、
 ウレシイ……」


再び唇は塞がれる。ギロロはこ
み上げてくる思いのままケロロ
をきつく抱きしめた。





「うちの父ちゃんと母ちゃん
 毎朝晩オレにチューすんの」

「へえ〜」

「でもヘンになったことなんか
 ないし……」


それでヘンになってたらおかし
いだろ、とギロロは内心呟く。


「で、ためしにゼロロに
チューしてみたけど、それでも
なんともなくってさぁ〜」


「はあぁぁぁ!???」


――何やってるんだ、
  こいつはっ!!?


ギロロが血相を変えていること
にも気付かず、ケロロは笑いな
がら続ける。

「そしたらゼロロ
 倒れちゃってさぁ〜……
 熱出しちゃうし……
 参っちゃうよね」


参ったのはゼロロのほうだろっ
!と心の中で叫びながら、ギロ
ロはできる限り冷静なふりをし
て言った。


「あのケロロ……」

「何?」

「そーゆーことは
 今度からやめてくれ」

「あ?」

「ほかのヤツと
 キスしたりしたら……
 なんかムカつくし……」

「……うん、ごめん、
 もうしない」



なんとなく感じる一抹の不安を
胸に抱えながら、とりあえずギ
ロロは息をつく。


――ミッションコンプリート
  ……かな?
 

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