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□ほほえみあくま
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憧れの恋愛には程遠いけど、これはこれで、割と楽しかったりする。



ほほえみあくま




それは数分前の出来事。コンビニつきあえ。まるで暗号のようなメールが一通届いた。誰からか、なんていちいち確認しなくても、こんな頭の悪そうな文を送るのは榛名以外にいない。

23時30分。最初のメールが届いた時間だ。非常識だと思ったけど、榛名に常識なんて通用しないことを思い出してすぐに馬鹿馬鹿しくなる。良く考えなくても分かることを、あいつは全然考えない。しょうがない。榛名だし。

「寒い…」

無意識に漏れた声に、良く考えなかったのは自分だと気付く。なんでこんな慌てて出たんだろう俺。マフラーくらいしてくればよかった。

携帯で時間を確認する。23時50分。あと5分したら帰ろう、と考えてすぐに気付く。俺、さっきもおんなじこと考えてたな。

気が抜けて、ふらりと壁に寄りかかる。このまま凍死したいかも。出来るわけないけど。

男同士の恋愛は難しい。気が付くと大親友みたいなノリになっていて、あれ俺コイツと付き合ってんだよなって、良く思う。榛名はそういうの全然気にしてないみたいで、例えば野球部のチームメイトにするように俺に接する。
榛名はこういうの嫌いっぽいから絶対に言わないけど、本当は特別なポジションなんだって確かめたい時もある。こうやって夜中に呼び出されたりするのは嬉しいけど、榛名がどういうつもりで俺を選んだのか知りたい。

知りたいけど、聞けないから、分からない。
多分、これからもずっと、ずっと。

「よー」

呑気なその声は、思いの外近くで響いた。なんて言ってやろうかと、軽くシュミレートする。

「遅い」
「中入れば良かったのに」
「じゃなくて、」
「つか」

ごめんとかないのかよ、と言おうとしたのに不意に榛名が俺の頬に指を伸ばしてもんだから、俺は言うべき言葉を見失なってしまった。

「つめてー」
「はる、」

最後の一文字は、鍛えられた胸に押し付けられて消えた。夜中とは言え誰かに見られるかもしれないのに、榛名はそれが当たり前みたいに俺を抱き締める。

ほんと冷てぇな。

いつもより近いその声に、俺ははたと気付く。マフラーを忘れたのも、あと5分を繰り返したのも、寒い中外にいたのも。

全部、榛名に会いたかったからだ。

こんなに寒い思いをしたって、どんなに理不尽な呼び出しだって、結局許してしまうのは、俺が榛名に恋をしている証拠で。榛名がどう思ってるかは、まだ少し気になるけど。

回された腕の力強さが、そのまま答えで良さそうだ。

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