古い話(↑新↓古)

□インザダーク
1ページ/1ページ

真夜中、着信、あの子の泣き声。
俺の体はどうしようもなく熱くなる。


インザダーク



アホっぽい声で俺の名前を呼ぶのは、わざとなんだろうか。
すっかり眠気の取れた頭でそんなことを考える。いや、わざとってわけじゃないんだろうな。あいつの場合、無意識にそういうのが出るんだろう。ああそうだきっとそうだ。

声が震えてる。泣いてるのを隠したりしない。本当に高校生なのかと問いたい。
そしたらきっと、きょとんとして、うんって言うんだ。首を傾げたりしながら。

…あ、今のちょっとキた。

無茶苦茶にしてやりたいくらい馬鹿でアホで、それから、どうしようもないくらい可愛い文貴。
今すぐお前の泣き顔を拝みたいよ。そしたらしばらくの間は、オカズに困らなくて済みそうだ。

「うっ、だ、って、も、悲しくって、」
「お前こないだもおんなじこと言ってたけど、また見たの」
「だあってっ、ふっ、すき、すきなんだもん、」



あの映画。



馬鹿だなあと思う。わざわざ感傷的になるような映画を、しかも同じ映画を何度も見るか普通。
思い出せるだけでも同じようなことが過去に四回はあった。どれもがありきたりな切ない恋の物語というやつで。

感情移入してしまうんだそうだ。さよならを言われる男に。俺にはさっぱり理解出来ない感性だ。というか、それは俺が女役ってことなんだろうか。まだ真相を確かめたことはない。

いつまでもグスングスンと泣きやまない文貴に、俺はいつもの最終手段に出ることにする。

「文貴」
「え、なに?」
「おいで」
「う、」
「三十分以内。あったかくしておいで」

これだけで必要な情報は全て伝わる。もう何度も繰り返したやりとりだ。
泣いてる子供にはスキンシップ。これが一番効くらしいと知ってからは、もうずっとこのパターン。

子供。到底高校生には似合わない単語なのに、文貴にはぴったりとハマる。
俺はいつも笑いそうになりながら、あえて事務的に尋ねる。そうすれば全て、俺の思う壷。

「うん、行く!行くから待ってて!」

ブチッ。
行動が全部見えてしまうような、切断音。
俺はついに吹き出してしまった。あいつの家と俺の家は十分も離れていないのに、何をそんなに慌ててるんだか。
まあそういうところも、いちいち可愛いんだけど。

あと数分もすれば鳴るチャイムの音が近所迷惑にならなければいいけど。
なんて、その数分後にはもっと大きく響くベッドの軋む音とか可愛い鳴き声よりも、そっちを気にしている俺はもうどうしようもないくらい末期だ。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ