novel
□SS集
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「ここのこと」
……はい?
夏楠は行き場のない手を伸ばしたまま、体を固めて瞬きを繰り返した。 ここ、って、心亜? うん。そうだ。琉憂が“ここ”と呼ぶのは、暁心亜以外にいない。
「え、……って、え? 心亜が……何?」
「だから、夏楠にならここを任せられると思うの」
「何で」
「ここはあの通りいい子だし、夏楠はいい奴だし、二人はお似合いよ」
そう言えば、琉憂は颯爽と残りの石段を上がっていった。
夏楠はピクリとも動かない。――こんな勘違いって、ない。
これから数ヶ月後に、心亜は死を迎える。夏楠の気持ちを代弁してくれる彼女がいなくなり、琉憂と夏楠は長い長いすれ違いを始めることとなるのだった――。
END
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