輝夜姫の名前

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部活の時間帯からあまり変わらない時間帯に家を出た。
あまり人を待たすのも失礼だと思い、約束の時間よりやや早めに出たとしても、学校の案内等少し出来ればいいと思ったからだ。

少し緊張したが聡子の家のインターフォンを鳴らすと、聡子がすぐに玄関を開けた。

「弦一郎君、早いね。おはよう」
そうにこりと笑って玄関を施錠していた。

「あぁ、おはよう。おばあさまは、お出掛けなのか?」
施錠するのを疑問に思いそう問えば
「あ、うん。今朝早くに施設に戻られたから…」
そう言って俯いてしまった。

そう言えば、佐々木さんは身体が弱く家と施設を交互で過ごしてると母さんが言っていたのを思い出した。

「いつ戻られるのだ?」
俺がそう問えば
「週末に帰って来るって。だけど今日面接終わったら、ご報告に一度行こうと思ってるけどね。」

「あ!!」
いきなり、聡子は声をあげた。
「どうした?忘れ物か?俺が急がせてしまったから。」
そう聞くと、聡子は首を降って
「それは大丈夫だよ。私も弦一郎君が来たときに家出ようとしてたときだから。今日引っ越しの荷物届く日だったの忘れてて……おばあちゃんのところに行くのやっぱり無理だね。」
そう言ってため息をついた。
しゅんとがっかりしている聡子の姿はなんとも庇護欲をそそる、何か俺にも出来ないかと思うが、俺にはおばあさまのかわりに成れないだろうし。


「聡子、施設の面会時間は厳しいのか?俺は部活が午前で終わるから荷物運び位手伝えると思うが。」

俺がそう言うと、聡子はまた首を降って
「ダメだよ!弦一郎君部活で疲れてるんだから!今日だって本当に学校連れてってもらうのも申し訳ないのに、これ以上迷惑かけられないし……本当私なに口走ってるんだろ、ごめんね弦一郎君、気にしないで。」

なんだこの可憐な生き物は‼

「いや…そんな気にやむこともなかろう、それに俺は常に鍛練に勤しんでおるから疲れなど元より感じん」
と俺がそう言えば、聡子は少し困ったような笑顔を携えて。

「なんか本当出会って早々に甘えてばっかりで申し訳ないよ。お礼もたいして出来ないだろうし。」
「礼などいらん、俺が思ったように動いているだけだ、先ほども言ったが聡子が気にやむこともない。」

じゃー…と聡子は言葉を濁しながらも「お願いします。」と歩いてた足を止めて俺に頭を下げた。

本当に聡子は礼節に厳しく育てられたのだろう。
俺は何故だか聡子の頭を撫でてしまった。

そうすると、聡子は顔を明らめて唇を尖らせた。

「なんか、私こっちに来てから凄く頭を撫でられてる気がする……前に住んでたところではそんなに撫でられたことなんて無いのに、こっちの風習?なんか照れちゃう」
そう言って微笑んだ

いや、そんな風習などは無いがなんか撫でたくなると言うか……
俺は撫でたのは始めてだが……そんなに撫でられているのか?
いや気持ちは分からないでも無いのだが、俺がそんな事を考えてると。

「うわー大きな学校!もしかしてあれが立海?」
聡子が感嘆な声をあげた。

あぁそうだと、俺が言えば聡子は
「弦一郎君が言ってたとおり、一緒に来なかったら迷ってたね。ありがとう。」

と綺麗に笑った。
本当に1つ1つの表情が俺の心臓に刺激を与える。

平静を装いもう一度撫でると、今度は俺に笑顔を向けた。
きっと俺に撫でられるのは嫌では無いのだろう。先ほどはビックリしただけで嫌な気分にもさせてなかったのだろうと、解釈することにした。
そうすると、一際大きな声が響き渡った。

「さ……真田副部長が!!!!」
俺と同じ時間に校門の前に切原がいた。

いくら部活に間に合う時間に家を出たとはいえ、何時もよりややゆっくり歩いてたから、もうとっくに始まる時間であろう事は分かっている。
一応時計を確認し
「切原ーー!貴様はまた遅刻か!!!」
俺が一喝をすると何故か隣から「ひっ!」と悲鳴が聞こえた。

しまった…聡子が居たのだ……
こんな可憐な生き物に隣で大声を上げたらビックリするではないか
「す…すまん。大丈夫か?」
そう謝ると。
幾分顔色を悪くしながら目を潤ませて俺を見上げた。

まずい、可憐すぎだ

少し違う事を考えながら、切原の事は後だと思い直し、「早く行け」とだけ伝え聡子を校舎の中へとさとした。
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