04/13の日記

18:41
トンベリ: とある魔物と死んた男の話
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ツがつく某所でお話しさせてもらって、それを一気に文章化したモノ。

死ネタ、です。苦手な方は注意です。

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※モンスターには死者の記憶が残るという前提での話。


『とある魔物と死んだ男の話』


主、起きてください。

「……。」

外で寝ていては風邪をひかれてしまいますと、地面に横たわったまま動かない主の体を揺さぶる。
人間はすぐに体調を崩す種族だ。こんな原っぱで寝ていては、間違いなく体調を崩すだろう。ましてや硬い地面で眠らずベッドという柔らかいモノで眠りなれているのだ、きっと体を痛めてしまうだろう。

「…、……?」

あまり眠りが深くない主は、私がこうして揺さぶるだけで起きていた。酷い時は私が寝床から抜け出すだけで起きるぐらいだった。それなのに、どうゆう事だろう?かなり強く体を揺さぶっても、主は起きない。目を開かない。

「……。」

よほどお疲れなんだろうか?と私は首を傾げた。それが本当なら、このまま寝かせてあげたい。けれど、寝ている場所が悪い。ここは、ついさっきまで大規模な戦闘があった場所だ。きっと、もうすぐ死体の持ち物をあさって金にしようという盗人どもが現れるだろう。そんな所でこんな風に無防備に寝ていては、主も被害に遭われてしまうだろう。それはいけない。

「…。……!?」

精一杯、主の体を揺さぶった時に私は気付いてしまった。主は、息をしていなかった。慌てて主の首に触れる。そこは大きな血管があって、そこに触れて脈があるかどうかで人間が死んでいるのか死んだフリをしているのかの判断しやすいという事を私は知っていたから。

「…、……!!」

脈が分からなかった。そして本来温かいはずの主の体は、冷たく固くなっていた。これでは、いくら揺さぶったって目を覚ましてくれないはずだ。だって、主は…ー。

私は、目の前が真っ暗になった。

「トンベリ、これからは私の事など気にせず生きるといい。」

そういえば、と思う。思い返してみれば、今回の戦いの前の主の様子は何か変だった。いつも私を連れて行ってくださるのに、今回は駄目だと言った。きっとまたハゲの上司あたりに嫌味ったらしく文句を言われたのだと思ってあまり気にしてなかったが、それにしたって様子が変だった。

私の餌はここ、好きな野菜はここと、私が生きるのに必要なモノはどこにあるかを主はわざわざ説明していったのだ。長い間生活してきた訳だし、あらかた何が何処にあるか私が知っているにも関わらず。

「好きに、生きるんだ。ここでこのまま過ごすのもよし、故郷のアミターに戻るのも自由だ。お前の好きなようにするといい。…出来る事なら、あの子達を私に代わって見守っててくれと言いたい所だが、これは私の身勝手な願いだな。最後のはやっぱり忘れてくれ。」

出撃前。主は私を力一杯抱きしめると、最後にこう言った。

「今まで、私に尽くしてくれてありがとう。」

あの時、なんで私は主を止めなかったのか。なんで意地でも主について行かなかったのか。後悔の念ばかり沸き上がってくる。

主は、きっと今回の戦いで命を落とすと分かっていたのだ。だから出撃の前にあんな遺言の様な事を。

「……、………。」

愚かなぐらい、本当に愚かなぐらい優しい主。感謝なんかいらないから、どうか私を一緒にそっちへ連れてって欲しかった。

冷たくて物言わぬ主に一度だけ頬擦りすると、私は空に向かって鳴いた。

「……。」

何かと苦労した主に訪れた眠りが、安らかであるように願いながら。


【終】

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