零式文章その3

□たぶん、自慢の彼氏です
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それさえなければ、何も文句はありません。


『たぶん、自慢の彼氏です』


どっちが先に好きだって言ったかなんて、はっきりとは覚えてない。

「…本気で言ってるの?まぁ、冗談だったとしても逃がさないけどね。」

「アンタこそ、本気で言ってるのか?もしそうなら、そっくりそのまま同じ言葉を返すよ。…今更冗談でしたって言っても遅いからな、ナギ。」

耐え切れなくなった僕が先に言ったのか、それともナギが先に言ってくれたのか、はたまたほぼ同時だったのか。
はっきりとは覚えてないけれど、お互いがお互いを好きだと知って同時に安堵のため息をついたのだけは覚えている。それなら悩んでないでもっと早くに行動に移せば良かったなって笑いあった事も。

「あ、そうだ。俺らが付き合ってる事、皆には内緒にしような。魔導院トップの0組所属のエースと落ちこぼれの9組所属の俺が付き合ってるなんて知れたら、もしかしたらアンタの評価が下がっちまうかもしれないから。」

普段はあくまでごく自然に、こっそりとお付き合いしましょ。

苦笑いしながら、付き合う事にそんな条件を提示してきたのはナギだ。

表向き9組は落ちこぼれのマグレ組とされているから、本当なら0組と仲良くしてるのもなんか可笑しい話だって言われてるのに、それなのに付き合ってるなんて…というのがナギの言い分だ。
もしかして諜報部として目立つ事は避けたいという事なのかなと、僕は何か文句を言う事もなくその条件をのんだ。付き合うのがNGって言われてる訳じゃないから、それでもいいかって。

「そのかわり、二人きりの時はとことん甘えてやるからな。覚悟しとけよな、ナギ。」

「どうぞどうぞ。二人きりの時は遠慮なく甘えてちょうだいな。ま、甘えてこなくても甘えさせてやるから安心してちょうだいな。」

少し冗談で甘えてやるって言ったのだが、その方が嬉しいと笑うナギにツッコミを入れる元気もなく。それで良いって言ってるんだから良いかと思って何も言わなかったのが、数日前の話だ。

そんな約束して、あまり日にちはたってないはずなんだけどな。これはどうゆう事なんだろうな、ナギ。

「ちょ、ちょっとナギ!何処に行くんだっ!?」

「……。」

僕の腕を引っ張ってズカズカと歩くナギは、声をかけても返事をしてくれなかった。

クリスタリウムで課題をしていたら、沢山の候補生に囲まれた。難癖つけられてまた喧嘩になるのかとうんざりと思ったが彼らはそうではないらしく、僕と仲良くなりたくて声をかけにきたらしいのだ。
じゃあなんでこんな大人数で来たんだ喧嘩売りにきたのかと勘違いするだろと言ったら、なんでも一人じゃ声をかける勇気が出ない奴ら集まっているだけだというのが彼らの言い分だ。

一人じゃ怖いけど皆と一緒なら怖くないってやつだろうかと、何があった時でも対処出来るようにとこっそり具現化させておいたカードを消した。話をするだけなら、特に問題はないし。

「エース君の好きな食べ物はなんですか!?好きな本は?好きな科目は?好きな動物はやっぱりチョコボですよね!?」

「ちょ、一気に沢山質問しないでくれないか?」

集団になって勇気と勢いと得た彼らは、次々と質問してくる。そんな彼らに困り果てると同時に仲良くなりたいならまず名乗るべきだろうとツッコミを入れたくなったが、そんな隙を彼らは与えてくれない。マシンガンの如く次々と質問をぶつけてくる。

「0組の女性は美人やら可愛い子やらより取り見取りだけど、エースはセクシーな人とキュートな人どっちが好きなんだ!?ちなみに俺は、レムちゃんが…。」

「何言ってんだ、やっぱりクイーンさんが一番だろ!あの知性的な雰囲気がなんとも…。」

「オレはケイトちゃんが良い!」

「ちょっと男子!そんなのは後でやってよ。今はエース君と仲良くなるのが先でしょ!?」

「…お、0組のエース!こんな所にいた!!」

言い争いを開始してしまった彼らにどうしたモノか困り果てていた時、ナギが現れた。

「あ、ナギ。どうかしたのか?」

「いや〜、もう探したんだから。探したったら探したんだから。…アンタん所の隊長が呼んでたぜ?」

最後にたぶんねとナギが呟いたのに気がついたのは、この場所にいた候補生の中では恐らく僕だけだろう。

だって、呼ばれてたんなら仕方がないねと、ナギに腕を引かれてその場を立ち去る僕を誰も引き止めようとはしなかったから。
ナギが割り込んで来た時は、落ちこぼれクラスの奴が何の用だって喰ってかかりそうだったのにさ。

「ナギ、助かったよ。ありがとう。」

「……。」

クリスタリウムを出た時点で僕をあの場から連れ出してくれたナギに礼を言ったのだが、ナギからの返事はない。僕の腕を掴んだままヅカヅカとかなりのスピードで歩いていく。

「ちょ、ナギ!?本当に何処行くんだ!?」

「…あんま大声出すなよ、目立つから。」

目立ちたくないと言うナギに、ならせめて何処へ行くのか教えてくれと言ったが彼は一切答えてくれない。

そのままズルズルと引きずられて来たのは、学生寮にある僕の部屋だ。部屋に入るとナギは、まずドアに鍵をかけた。そして窓のカーテンをきっちりとしめてから、僕をギュウッと痛いぐらいに強く抱きしめた。

「ちょっと、痛いんだけど?」

「あー、マジでムカつく。あいつらなんな訳?俺のエースに色目使いやがって…。エースは俺のだってのに。今日の奴ら、一人残らず消してやろうかな。」

「僕と会話してたってだけで殺すなよ、ナギ。」

僕を抱きしめたままブツブツと呟くナギに、ハァとため息をついた。
付き合う前は、あまり物事に執着とか持たなそうなイメージをナギに対して持っていた。しかし付き合ってみてビックリ、ナギはめちゃくちゃ嫉妬深くて執着心の塊だった。今日のみたいに僕が誰かと話してた時に間に割って入ってくるのは、もう日常茶飯事だ。

「色目って、僕と仲良くなりたいってイロイロ質問してただけだろ?大袈裟すぎるよ、ナギは。」

「エースと仲良くなって、○○○や×××な事したいだって?…今すぐ生まれて来た事を後悔するような方法でこの世から消してくる。」

「だから落ち着けってば、ナギ。」

ナイフを具現化させて部屋を出て行こうとするナギを、苦笑いしながら引き止める。
ナギが僕なんかに対してちょっと行き過ぎぐらいの執着心を持ってくれている事を少し嬉しいと思うけど、それで彼の行動を容認していたら確実に死人が出てしまうから困りものだ。

「エース、止めるな。大丈夫だ、誰にもばれない様に始末するの得意だから。諜報部を舐めるなよ!」

「…ナギは、僕と過ごすより彼等と過ごす方がいいのか。僕を一人にして、ナギはどっか行っちゃうつもりなのか。」

ちょっと寂しい…、かな。

言っても引っ張っても止まらない場合は、寂しさをちらつかせればだいたいナギは止まる。かなり冷静さを失っててもこれが有効的だと勉強したのは、つい最近の事だ。それまでは大変だった。
だってナギ、なんかスリプルとか効きにくいし。諜報部ってもしかして、そうゆう状態異常の耐性をあげる特訓でもしてるのかな。よく分からない。

「あんな奴らより、エースと一緒にいたいに決まってるじゃん!そうだ、この前美味しいって評判の店のクッキーが手に入ったんだ。今からお茶にしよう。エースは何飲む?入れてやるよ。」

「ミルクティー。角砂糖二つで。」

はいよと返事をしてテキパキと準備をしだしたナギを見つめながら、冷静な状態なら何も文句なく良い彼氏ですって言えるんだけどなぁと僕はこっそりため息をついた。

「…あのさぁ、ナギ。皆に付き合ってる事を黙ってるの止めたら、ナギがこうしてイライラする事もなくなるんじゃないか?」

「落ちこぼれの9組の奴と付き合うぐらいなら俺と付き合えよって、エースを物陰に引きずり込む様な奴がいるかもしれないじゃん。俺のエースがそんな奴らに汚されるとか考えたら…。」

「考えたら?」

「…とりあえず、そんな可能性がありそうな奴を一人残らず消してくる。大丈夫、死者の記憶はクリスタルが全部消してくれるから!」

「結局そこに落ち着くんだな、ナギは。とりあえずで人を殺そうとするのは止めろ。」

凄い良い笑顔でとんでもない事を言うナギに、やっぱり諦めるしかないのかなと僕はガックリとうなだれた。


【終】

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