零式文章
□裏庭のベンチにて
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知らない名前。
そいつは、誰だ?
『裏庭のベンチにて』
この頃、エースは良く裏庭のベンチに座って眠っている事が多い。
「また寝てやがる…。」
眠るエースの横に座りながら、まったく気持ち良さそうでと半分呆れながら彼を観察する。
かなり疲れているんだろうなと思う。体力馬鹿と呼ばれる自分と比べると、エースの体力はかなり劣る。その分頭を使って無駄なく動いているようだが、それでも疲れるモノは疲れるのだろう。こうやって自分が隣に座った事も気づかないぐらいに深く眠ってしまうほど。
「……―。」
眠るエースが、何か呟いた。エースがこのベンチで眠っている時だけ、必ず呟く言葉がある事に気付いたのはつい最近だ。
「青い空、チョコボ、イザナ、ね…。」
イザナ。
その知らない名前に、イライラした。
その名を呟く時エースは、必ず笑うのだ。嬉しそうに、楽しそうに、そして幸せそうに。
「気に喰わねぇな…。」
ガシガシと頭を掻きながら、幸せそうに笑っているエースを見つめる。
イザナとは、きっとこの魔導院に来てからエースが仲良くなった人物の名だとは思う。育った施設にはそんな名前の奴はいなかったし。
「俺が側にいるっていうのに、そのイザナって奴と夢で戯れてた方が楽しいてぇのか?オイ。」
眠るエースの頭を軽く叩きながら、そんな事を呟く。
いつでも、コイツの頭の中を占めているのは自分でありたいと思う。夢の中だろうが、それは例外ではない。自分以外の誰かが存在するなんて、腸が煮え繰り返るぐらい耐えられない事だ。
「あれ?いつの間にか寝てた…?」
頭を叩いたせいで、エースは起きたようだ。まだ頭がボーとしてるのか、目をこすりながら首を傾げている。
「昼寝とは随分と余裕だなぁ、オイ。寝てる暇あったら、訓練でもしたらどうなんだ?」
「ん?それもそうだな…。」
体力をつけろってクラサメ隊長から言われたんだったと、そんな事を言いながら背伸びをするエース。
今この瞬間にイザナとは誰だと聞けばコイツは答えるだろうかと頭を過ぎったが、馬鹿馬鹿しいと首を横に振った。
夢でしかコイツに会いに来ない様な奴だ。きっと、大した奴じゃない。
「しょうがねぇから、訓練付き合ってやろうか?テメェが訓練さぼらねぇか、側で見張っててやるよ。」
「ナインじゃないから、サボったりはしないさ。」
でも、ありがとう。
ニッコリと笑うエースに、いつでもコイツの一番は自分でありたいと心底思った。
【終】
エース君の二度目のベンチイベントの時、ナインがすぐ側にいたもんだからつい(笑)