ディシディア文章その2
□優しくて、残酷な…
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欲しいならあげるよ。
きっと、貰わなければ良かったって後悔する事になるだろうけど。
『優しくて、残酷な…』
「見付けたぜ、混沌の戦士!」
同じ所にずっといたら体が鈍ってしまうと思って、気分転換を兼ねて行った散歩。散歩の最中に、これまた随分と懐かしい人間と遭遇した。
「ジタン…。」
「アンタがお宝隠してる事ぐらい分かってるんだ!痛い目にあいたくなかったら、さっさとそのお宝を寄越しな!」
尻尾をユラユラと揺らし、武器を構えるジタン。それに、変わらないなぁと懐かしく思う。
秩序側にいた時も彼とよくどっちがお宝を沢山ゲット出来るかって勝負してたっけ。勝ち負け関係なしに、彼と勝負するのはとても楽しかった。
「お宝なんて、俺は持ってないよ。他の奴を当たったら?例えば、皇帝とか。」
「嘘言ったって無駄だぜ?ボスは必ずお宝を持ってるって相場は決まってるんだ。あとは、とらわれのお姫様とか!」
嘘を言ったつもりはないのだが、どうやらジタンは信じてくれそうもない。というかとらわれのお姫様とかいるとしたら、尚更俺じゃなくてガーランドとかなんじゃと思ってみたものの、突っ込みをいれるのが面倒だった。いれたって、多分ジタンは聞かないだろうし。
困ったなぁとため息をつく。そして考えてみる。
お宝、宝物、大切なモノ、大事にしてるモノ…。
「お宝ねぇ。もしかしたら、一つだけあるかもしれない。」
「やっぱりあるんじゃねぇか!」
これで勝ちは戴きだぜと嬉しそうに笑うジタンは、今回も誰かと勝負しているらしい。その相手が誰だか分からないが、それが俺じゃない事が少し寂しい。前は、そのポジションは俺のだったのに…。
「そのお宝、さっさと差し出した方がいいぜ?なんたって、俺はそこそこ強いんだからな!」
後で泣いて謝ったって遅いからな!と自信満々に言うジタンに、そう簡単に渡せるモノじゃないよと俺は苦笑した。
「どうしても欲しいって言うなら、俺に勝った後に俺の頭とか胸とか切り裂いて探してみるんだな。運がよければ見つかるかもしれない。」
「げ。お宝を体の中に埋め込んでるのかよ…。」
悪趣味だなと嫌そうな顔をするジタンを見て、俺は笑った。
どうやらジタンは、俺のお宝は形があるモノだと思っているらしい。誰もそんな事は一言も言ってないと考えを修正してあげたかったが、やっぱりそれも面倒臭かった。
「…(俺のお宝は、記憶。秩序側にいた頃の、暖かな思い出。俺以外の誰も覚えてない、とても優しくて、とても残酷な思い出だ。)」
手に入れてから後悔しても遅いからな!と、俺と戦う気満々のジタンに向かって胸の中で呟いた。
「アンタを倒して、お宝ゲットだ!」
「…こんなのを欲しがる奴なんて、ジタンが初めてなんじゃないか?良かったな、一番で。」
でも、俺の抱える記憶を知ったジタンの顔も見てみたいとも思う。
きっとその顔は、俺が混沌側に転生した瞬間と同じはずだから。鏡なんてその場になかったから、どんな顔をしてたかを俺は知らない。実際どんな顔をしてたか、興味がある
「せめて、ジタンが後悔しない事を祈ろう。」
欲しいなら、あげるよ。
そのかわり、呪いたいぐらい残酷な運命にあがらってみせてくれ。
【終】
良く秩序側と遭遇して戦闘になるけど、このバッツは相手を殺さないというか殺せないと思います。思い出が邪魔して。
ひたすら、相手が自分を殺してくれるのを待っていたりする…かも。