創作小説

□アンバランスな世界
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辰怜(しんれい)が水派の名家が陥落したことによって城に来てから三カ月が経った。


初めは両親のことを思い塞ぎこむ節があったが、
それも次々と課せられる初楼(ういろう)としての勉学や修行によって次第に見られなくなった。


彼ら初楼、特にその中の手本である五大神となるためには、
様々な面で秀でていなければならなかった。



上に立つべきものとしての知識、兵法、またはありとあらゆる妖怪たちの特徴、さらには他国の歴史。


これらを頭に叩き込みつつ、実践を考慮した修行もみっちりと行われた。


今までも自らの特殊能力である水を扱う戦い方を父に教わってきた辰怜は、更なる飛躍のために貪欲だった。


まだ幼い少年にとっては苦痛であろう毎日を、むしろ生きがいであるかのように過ごしていた。


彼は初楼の五大神として立派に城主・船虫(ふなむし)を守る日を夢見ていたのだ。



「ふう…」


午前の鍛錬を終えた辰怜は水汲み場で汗に濡れた体を冷ましていた。

父の形見である刀・水破七宝刀(すいはななほうとう)もだいぶ扱えるようになった、

と師匠である翠琥(すいこ)は褒めてくれた。

もしかしたらそろそろ初楼として任務を任されることもあるかもしれない、とも言ってくれたのだ。



「嬉しいけど…やっぱ実感わかないや」



辰怜はこの城で自分の面倒をよく見てくれる翠琥のことは好きだった。

面倒見がよくて気さくな翠琥は辰怜にとってはいい兄貴分だった。

それでも、彼の言葉を信じきれるほど自分の実力に関しては自信を持つことができないでいた。





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