創作小説
□アンバランスな世界 下
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朝の凛とした空気は好きだ。
町娘でも兵隊でも路地裏で生と死の境を彷徨う人々も…
そして一国の主であっても日はまた昇る。
一日のサイクルは変わらずに平等に訪れる。
朝の厳しさをも思わせる張りつめた空気は今日この日を迎えられた全ての人々の気持ちをもう一度リセットするようで…
船虫はまだ城が活気に満ち溢れるまでのわずかな時間を楽しんでいた。
あと数刻したならば、また今日も多くの人が訪れる見慣れた風景に戻るであろう。
ふと、昨晩送り出した子供たちの姿が頭によぎる。
次世代を担っていく大切な戦士たち。
まだあどけなさが残る、言葉通り子供なのだ。
彼らの初任務に選んだ神武村の周辺は最近急激に妖怪が増えたのだ。
もともと土地に恵まれた一帯だ。
複雑な縄張り争いが繰り広げられていた。
人と人、妖怪同士、そして人と妖怪…
「よろしかったのですか?」
静まり返った部屋に溶け込まない鋭い声色。
船虫の第一側近である玲瓏(れいろう)は険しい顔をしながら城主に訊ねた。
「神武村の辺りは近頃妖怪の巣窟とも言っていいほどの異常な繁殖を見せているはず…
まだ情報はないに等しいですが、奴らが動き出したとも考えられます。
そんな危険な地域に未熟な彼らを送るなんて…」
「そうだな、死ぬかもしれない。少し急ぎすぎたか…」
いつもの穏やかな物腰からは想像できない空気をまとった船虫。
しかし玲瓏が怪訝そうな顔をしたのを確認すると、ふと空気を和らげてほほ笑んだ。
「まぁ、無理だけはしないでくれるといいのですが…」
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