創作小説
□対峙する“リュウ”
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「例の神武村周辺の妖気の塊ですが、
影からの報告によるとまるで元からいなかったと思えるほど目立った動きがないそうです」
任務を終えた少年たちからの報告書に目を通していた船虫が、
一通り読み終えたのを確認して玲瓏は声をかけた。
少年たちを妖怪の巣窟に向かわせたのとほぼ同時に、
船虫は彼の側近である玲瓏に彼らの動向を確認するための影を送り込むよう命じていた。
万が一が起こった時に適切な対応をするためだ。
少年たちの報告からも神武村の周辺のバランスが崩れた原因は
猛虎の南下だけではないということが伺えた。
今回は神武村とその北の森を正常な状態に戻すことのみを行った彼らだったが、
この調子ならその背後にある大きな敵の存在も気付いただろう。
その上で当初の船虫の言いつけを守って下手に動かなかったのは、
単に聞き分けが良かっただけなのか…
いや、幼いながらかなりの実力を持った彼らのことだろう。
敵の実態が掴めていない今回は、あえて手を下さなかったと考えるのが妥当であろう。
なるほど、いい駒を持った…
船虫は少年たちの予想以上の力量に嬉しい誤算だ、と口元を緩ませた。
そこで、彼らが初任務から帰ってきてからまだゆっくりと顔を合わせて話していないことを思い出す。
右も左もわからなかった初任務のこと、相当な疲れが溜まっていることだろう。
しかし早いうちに彼らに会っておきたかった。
「三人とも今はどうしていますか?疲れきっているでしょうか?」
「私が見る限り目立ったケガも疲れも見えませんでしたよ。
露草と槍恣はそれぞれ武器の手入れなどをしています。ご希望なら今すぐにでも呼びに来させますが」
「おや、辰怜はどうしましたか?」
「ああ、彼は…」
この国の主がやたらと最近城にやってきた一人の少年のことを気に入っている様子に玲瓏は秘かに溜息を飲み込んだ。
確かに彼からは天賦(てんぶ)の才を感じたし、今に唯一無二の強力な存在になることは容易に想像できた。
だが、それを差し引いても彼に対する船虫の熱意は何かを感じさせた。
まるで初めて手に入れた玩具を決して放そうとしない幼子のような必死さを。
「水派の本家の跡地に向かいました。
こちらに逃げてきてから一度も帰ったことがなかったようでしたので…一度気持ちの整理をしたいのでしょう」
まだ、10を過ぎたばかりの子供ですからね、
そっと茶を口に含みながらしみじみと付け足す。
それを横目に船虫はそっと溜息をついた。
「そうか、まだあの子はあの家に行っていなかったのか……あれからもう三カ月が経ったのですね…」
そっと水派の本家跡地があるだろう方向へ視線を投げかけながら、
船虫は幼い少年の身を案じるよりほかなかった。
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