創作小説

□炎の継承
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少し肌寒さを感じるほどの時刻、まだ東の空が明るくなるまで1時間以上はある。

普段寝汚いのにこんなにも早くに目が覚めたということは、そうとう夢見が悪かったのだろう。
露草は井戸の冷たい水で顔を洗い、滴る水もそのままに、ふうとため息をついた。


このところ昔のことばかり夢に見る。
しかも忌々しい記憶をずっと繰り返すかのように。



「意外と俺も女々しいところあんのかな」



自嘲気味にこっそりと笑ったが、胸のあたりにたまった嫌な気分はちっとも晴れなかった。

露草自身、自分が何故ここまで己を見失っているか、その原因がはっきりとわかっていたからだ。


一週間後に迫った元服の儀式。
15の誕生日に行われるその儀式と同時に露草は正式に火派を継承し、五大神としての地位を確立するのだ。

その時を今か今かと心待ちにしているように見えた露草だったが、実際一週間前になって己の覚悟がいかほどかと足踏みをするようになっていた。



「今更…もう引き戻せねえんだ。ちゃんと火派を継がねぇと…」



呟いた言葉は後ろ向きな自分自身に言い聞かせるようだった。


もうすぐ夜が明ける。

もう一度井戸水で顔を洗った露草の瞳からは、まだ若干の怯えや恐れを感じさせたが、必死に決意を固めようと足掻いているのが伺えた。





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