□silver fang(ゾル家執事夢)
□お約束事
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「はぁ…。まぁしかたないね、許可しよう。特に罰も与えはしない」
「あ…。ありがとうございます!」
「ここまで来て1人で帰れって言うのも可哀相でしょ?母さんもゴトーも許してるみたいだし。…ただし、条件がある」
「はい…」
「試験中はオレに話しかけてはいけない。オレに付き従ってもいけない。視線をよこすのも駄目。必要以上に近づかない。やむを得ず会話しなくてはならない場面にも絶対に敬語を使ってはいけない。わかったな」
ぽん、とオレの頭をなでて言う。
「は…、しかし」
「しかしじゃない。別に意地悪で言ってるんじゃないんだよ?…この会場内にキルが居る。」
「キルア様…でございますか?」
提示された条件の意図が読めず反論しようとしたが、イルミ様の口から意外なお方のお名前が出てオレの思考が止まった。
「そう。お前はキルに、オレがここにいることを悟られてはいけない。
いいかい?お前はオレが家に不在で暇そうだったからっていう理由で母さんに言われてキルの様子を見に来た。キルがハンター試験を受けることを知ったお前は母さんの指示を受けて、キル護衛のために追ってハンター試験を受験した。
お前は目立つからすぐにキルにも見つかると思うけど、キルに理由を訊かれたらそう答えるんだ」
「はい…」
「…オレがいるってキルに知られたらきっとキルは逃げると思うし。オレは母さんにキルを連れ戻せって言われてるけど、それにはきちんとした手順ってものがあるからね。連れ戻すのはオレがやるから、それに関してお前は手出ししなくていい。キルの護衛も兼ねて、ハンター試験をフツーに受験してなよ」
「はい。承知いたしました、イルミ様」
そう言ってぺこりと頭を下げると、「…ああ、そっか。それも必要なんだ」とイルミ様は再び何かを考え始めた。…一体なんだろうか?
「何って…、名前。イルミなんて本名で呼ばれたら一発でばれちゃうだろ?」
「あ…そうですね…。ですが登録自体はイルミ様……イルミ=ゾルディックのお名前でおこなってしまいましたが」
「そうなんだよね。…うーん…」
困ったなぁとばかりにまた首を傾げられる。……が、やはり怖い。
思わず視線をはずしてしまうほどに。
「…あ、そーか。ライセンスの認証や登録は本名じゃないとダメだけど、呼ばれる分には本名じゃなくても良いんだよね。どうせハンター協会も、合格するまではこの"番号"で受験者を管理してると思うし」
ぐいっと胸の番号札―――イルミ様は301番か。を差してそう申される。
「……と、言われますと?」
「アレだよ。たとえば友達同士では本名じゃなくてもあだ名とかで呼んだりするでしょ?たとえ試験中でも」
「…ええ、そうかもしれませんね」
友達なんていないからわからないが。
「じゃあ呼ばれる分に限っては偽名でも良いって事だよね」
「あ」
「よし決めた。試験中、やむを得ずオレを呼ぶときは"ギタラクル"って呼ぶこと。様づけは無しだよ、アゲハ。敬語も。」
「わかりました」
…わかります。理由はわかるのですが…。
そのギタラクルという名前は一体どこから来たんですか、イルミ様…。
突っ込みたいがさすがに主相手には突っ込めない。オレはその疑問を心の奥底にしまう事にした。
どうせ訊いたところで「インスピレーション?」とか一言で返されるのがオチだ。
「じゃあアゲハ、試験中はそういうことでよろしく」
「はい、お任せくださいませ。イル…〜〜〜ギタラクル」
「うん。イイコイイコ。」
ニヤリと笑ってオレの頭をなでるイルミ様…、もとい、針まみれの大男。
…だめだ。姿形、お名前、敬語…すべてに違和感がありすぎる。
これは本当に、イルミ様とは喋らないようにしたほうが良いのかもしれない…。
「あ、そうそう」
人混みに消えようとしていたイルミ様が、突然『大事な事忘れてた』とピンと人差し指を立てて振り返った。
「何でしょう?」
…と、そう訊いて返ってきた答えにオレは本日二度目の後悔をすることになるのだが。
―――――オレに拳を向けた分はあとでしっかりと「おしおき」するから。覚えといてね、アゲハ。
じゃねv
つづく