□silver fang(ゾル家執事夢)

□silver fang(過去編)後編
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「……アゲハ?」


「…っ!!…すみ、ませ…! ……わっ、わたしっ…」

「拭かなくていいよ。…何で泣いてるの?」


声をかけるとアゲハは慌てて袖で涙を拭おうとする。
だからそのアゲハの手を掴んで、無理やりにベッドへ押さえつけた。


ふだんのアゲハなら絶対に見せる事の無い、すがるような目。
それが、弱々しくイルミを見上げる。



「? ……何?アゲハ?そんなにコレ、痛かった?」


アゲハの胸の上に乗る赤い傷を指して、イルミは尋ねる。

しかしすぐさまアゲハは『違う』とばかりにフルフルと頭を横に振った。
そしてその後は何度も、すみません、と睦言のように繰り返す。



なおさら意味が分からなくなりイルミは首を傾げた。

自分とアゲハの今までの言動をざっと思い出してみて―――――ふと気づく。


「あ」と声を上げて指を立てると、アゲハがびくっと体を揺らした。



「もしかしてアゲハ――――本当に『欲しい』の?」

「…ッッ!!申し訳ございません…、申し訳、ございません……っ」


思いついたことをそのまま尋ねる。するとアゲハは顔を赤く染め、必死になって頭を横に振る。それを見てイルミは確信した。




潔癖症で他人との必要以上のふれあいを嫌うアゲハは、キスとかセックスとか、そういった性交渉にも当然嫌悪感を抱いている。

たとえ自分の命令でも"しよう?"って時にはいつも嫌そうに顔をしかめているし、そういう類の下世話な話題も嫌いだ。



―――『…欲しいのかい?アゲハ?』



自分の命令には逆らえないのを承知でそんなことを訊くのはサディスティックな欲求以外の何者でもないのだが、今日に限ってはどうやらそうでもなかったらしい。




「(ふーん…?)」



心中で、イルミは笑う。




自分に心酔してるアゲハのことだ。

その理由も大体想像はつくが――――(捨てられるとでも思ったんだろう)




だからといって、"これ以上"はこっちからわざわざ気を利かせてやる必要は無いよね?




気高いアゲハに無理やり言う事を聞かせて組み敷くのもいいものだけど…


「(弱ったアゲハに可愛くおねだりされるなんて、めったに出会える事じゃないしね。)」



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