□silver fang(ゾル家執事夢)

□お約束事
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「…や。随分お疲れみたいだね?緊張してるのかい?」

壁際に座り込んでぼんやりと地下道の天井を眺めていたら、横からそんな声がかかりオレは視線をそちらに向けた。
声をかけてきたのは、16番のプレートを胸に下げた小太りの男。

こんな気分の悪いときにオレに声をかけてくるとは、よほど運が無いな、この男は。



ぎろ、と睨んでみたが、男はそれにも気がつかないのか表情を変えず。
雑魚の癖にいい度胸をしている、と鼻を鳴らした。



「オレ、トンパって言うんだ。あんた、ルーキーだろ?そんな派手な格好した受験者はついぞみかけないから…」

「うるさい、消えろ」

「…え?」



ニコニコと笑顔で言う男のすさまじく耳障りな声が、オレの神経を逆なでする。
イラつきながら、のそりとオレは立ち上がった。


「この服はとても大切な方からいただいたものだ。お前ごときが馬鹿にする事は許さない。―――それから、目障りだお前。怪我をしたくなければオレの前からさっさと失せろ」

「おおコワ…ッ。本試験前だから神経昂ぶってるのはわかるけど、最初からそれじゃあ持たないぜ?もっと楽に……うごっ!?」


なおもまとわりつくその男の言動に、さすがにキレた。セリフの途中にもかかわらず、ガッと男の首を片手で掴みあげてそのまま頚動脈を絞める。


「耳が悪いのか?それとも頭が悪いのか?オレに二度同じ事を言わせるな」

ゆっくりと男の足が地面から離れる。

細腕一本で男の体を宙に吊り上げるその様に、周りがざわめき始めた。


「オレは今ひどく機嫌が悪い。これ以上オレに関わるな。次にオレに話しかけてきたらそのときはその場で縊る。いいな。二度は言わない。」


全体重が首にかかって息ができず、熟したトマトのように顔を真っ赤にさせているその男。

失神寸前でカフカフと空気を漏らすその男にどこまでオレの言葉が聴こえているかは解らないが――――何もしていないにもかかわらずこんな事をされればいくらなんでももうオレには近づかないだろう。


男がオチる前にパッと手を放した。

ドサリと地面にしりもちをついた男はゲホゲホとむせた後で、涙目で「わ、悪かった…」とだけ残して人混みの中へと消えていった。

ざわつく周囲には、ぎろりと一睨み。それだけで周りの男達はオレから視線をはずし、そそくさと間を取るようになる。



……ふん。やっと少しは静かになった。


八つ当たりのようにガッと壁を蹴る。そしてオレは再びその場に座り込もうとした。


が――――




「ねぇ、キミ」

という声と共に、ぽんと肩に置かれる手。

瞬間、一気に血が上った。





「……オレに触れるな!!」


振り向きざまに拳を振るう。
オレに気安く触れていいのはイルミ様……ゾルディックの方々だけだ。


下種な男の頭を潰すつもりだったが、オレに声をかけてきた男はオレのその渾身の一撃を止めやがった。

ふざけるな。オレはこれでも強化系――――。



「…………って…、え?」


振り返って、顔が歪んだのはオレのほうだった。

声をかけた男はまったく知らない顔だったのだが―――しかし、その体には見覚えのある針が刺さっており、そして…


「…何やってるの、アゲハ?」

聞き覚えのあるその声が、オレの心を震わせた。




………ああ…。

オレ…、クビ決定だな……。


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