小説 陽
□∞2 世界樹の娘
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◇プロローグ
「────以上が『世界樹の落葉』にまつわる報告です」
まだ正午前だというのに薄暗い──窓から差し込む陽光が無ければ真っ暗であろう部屋の中で、ピシッとしたスーツに身を包んだ女は正面の誰もいない椅子の背もたれに向かって報告を終えた。
「ご苦労」
いや、無人ではなかった。
ただ、その身体は小柄過ぎて椅子の裏からではまるで伺うことはできない。
いや、小柄と言うか……子供……って言うか幼女である。
その幼女に向けて報告をしていたスーツの女の顔には緊張の色が観て取れた。
むしろ恐れていると言っても良いかもしれない。
大の大人が幼女に対してである。
「全く、余計な手間を増やしてくれたものじゃな?」
女に背を向けたまま、幼女は心底呆れた声で呟いた。
声こそ愛らしい子供声なのだが、その口調は年寄りのソレだった。
「は……は、申し訳……ありません……」
別に自分が何かしたわけではないのだが、女はつい頭を下げてしまう。
「まあ、一応事態は終息した訳だし、計画も……遠回りになるが一応進んだしの……この件は終わりで良いじゃろ」
幼女は力を抜いて背もたれに体重を預けた。
「は!」
女もまた、安堵したのか大きく息を吐いて力を抜いた……と言うか抜けた。
「下がって良いぞ……」
幼女は女に背を向けたまま背もたれからはみ出るように手を出してヒラヒラ振り、退出を促した。
「かしこまりました」
女が踵を返し、部屋から出ようとした所で、
「ああ、そうだ」
思い出したように背後から声がかけられ、女は激しく肩を震わせた。
「レヴィアに伝言じゃ」
「伝言?」
伝言等と気安い言葉で言っているが、コレは実質『勅命』である。
女は息を飲んで続きを待つ。
「任務ご苦労、その功績に免じて貴公には別命有るまで別荘でゆっくりと骨休めをする権利を与えようとな」
「か……かしこまりました……」
果たしてその別命とやらが与えられる日が来るのか……女はレヴィアという者に憐れみを禁じ得なかった。
「全く……思った通りにはいかぬもんじゃのう……」
誰もいなくなった部屋で幼女は独りごちた。
「さてさて、次はどんな厄介事が舞い込むことやら……」
言葉とは裏腹に、幼女の口端は楽しそうにつり上がっていた。