小説 陽
□∞2 世界樹の娘
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◇ミニーオ先生の魔法講座
「はい、それではお復習です」
放課後、生徒達が帰った教室に教師『ミニーオ・クレッティス』の声が静かに響いた。
「はいです」
相対する生徒はたった一人。
腰まで有る長い金髪に翡翠色の眼をした少女だった。
少女の名前は『マナ・カーディナル』。
つい最近このクラスに転入してきた。
詳しい出自は説明されてはいないのだが、年齢的にこれくらいだろう……という学園長の判断で中等部三年に編入された。
が、この少女には常識というものが欠落していた。
日常生活もそうだったのだが、ソレはクラスの皆が総掛かりで教えているので何とかなってはいる。
問題は授業だ。
他の授業はまだ何とかなっているのだが、ミニーオの受け持つ『実技』は特に問題だった。
(こんな所まで『お兄さん』に似なくても良かったんですがね……)
ミニーオはマナの兄と呼ばれる生徒を思い浮かべた。
数週間前、マナを最初に学園に連れて来たのは彼女の兄だった。
もっとも、本当の兄妹ではない事は誰の目にも明らかなのだが、そんな事にツッコミを入れる野暮なミニーオクラスではない。
彼が……そしてマナがそう名乗ったのなら、もうソレで良いのだ。
で、その兄が苦手だったのが実技だった。
その為、彼はしょっちゅう授業をサボってミニーオを困らせたものだ。
マナはサボりこそしないものの、彼とはまた違う問題を抱えていた。
「まず、魔法を発動させる為にはどんな方法が有りますか?」
マナは少し考えてから、
「思う「違いますよマナさん」
ミニーオは喰い気味に否定する。
コレがマナの欠点──魔法の理論を全く理解していない。
理解していないのに何となくで発動させるのだ。
天才と言えば聞こえは良いが……正直、危なっかしい事この上無い。
「まずは呪文の詠唱です」
ミニーオは教室の前に有る発光板に『詠唱』と大きく書いた。
「詠唱……」
以前に教えた筈だが、マナはキョトンとしている。
本当に忘れたのか、忘れたふりなのか、ミニーオにはイマイチ判断がつかない。
何せマナはいつもこうなのだ。
クラスメートと話していても、食事をしていても、表情が一切変わらない。
怒りもしないし、泣きもしないし、……笑いもしなかった。
(多分……感情を表に出すことが苦手なんですね)
そう結論づけたミニーオは、改めて魔法の解説を続けた。