小説 陽

□∞2 世界樹の娘
4ページ/97ページ

「詠唱とは魔力を込めた特定の言葉を紡ぐ事です」
「特定の言葉……」
 マナの言葉に頷きつつ説明を続ける。
「例えば、火の魔法を撃つには『大気をさまよう数多の火の精よ、今ひとたび我が願いの元に集い、眼前の敵に向かいて飛翔し、焼き尽くせ』とかですね」
 ミニーオの例に、マナは首を傾げた。
「そんな事言ってるの聞いたこと無いです」
 マナは今までの授業()で魔法を使っていた人達を思い出すが、魔法を撃つ際にこんな長々と詠唱をしていた者など見たことが無かった。
「そうですね、現代の魔法ではほとんど詠唱は行われません」
 マナの反応に内心喜びつつ、ミニーオは発光板に新たな言葉を書いた。
「それが『無詠唱魔法』です」
「無詠唱……」
「コレはそのまま、詠唱をしない魔法ということです」
 これこそ自分が知っている魔法だとでも言うように……マナはウンウンと頷いた。
「魔法を使う人が増え、研究されていく中で、呪文は省略することが可能となっていきました。先程の火の魔法も『炎よ飛べ』だけで発動できたりするようになります。コレを可能としたのは……」
 ミニーオはマナのおでこを指でつついた。
「私達の頭の中に有る『幻想変換領域』です」
「頭の中?」
「実際に中に入っているという事ではありませんよ? 精神力とか、心とか、そういう実体の無いもの──目には見えなくても確かにソレは有るんです」
「心……」
 何か思い詰めてしまったマナに苦笑しつつ、ミニーオは続ける。
「幻想変換領域とは、簡単に言ってしまえばノートです。呪文を口に出す代わりにそのノートに書き込む事で魔法を発動させる事ができるんです」
 マナの魔法が発動しているのも、おそらく無意識にこの領域に書き込んでいるからだろう。
「この領域に書き込むのは実際に口に出すより遥かに速いのです……それこそ、思っただけで書き込む事ができると言っても良いでしょう」
 そう考えると、マナが言った「思う」というのもあながち間違いではなかった。
「何より、自分で固有の魔法を予め登録しておく事で更に速く安定して毎回全く同じ魔法を使うことができるようになるんです」
 ただし……と、ミニーオは付け加えた。
「幻想変換領域には個人差が有ります」
「個人差?」
 再びマナは首を傾げた。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ