12/13の日記

14:37
忍たま(転生学パロ)小噺
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気付いたら保健室の天井が見えた。ぼんやりした視界の大半が白くて、記憶も定かでない。一体どうしたっけと思い起こすのと同時に右端に誰かが居る事に気付いた。ベッドに突っ伏したままの姿でも誰なのかがわかるのは前からの記憶の賜物だろう。
「……どい?」
その両手はしっかりと己の右手を掴んで離さない。おかしいな、多分今は授業中じゃなかったっけ?と考えながらもあぁやっぱりおっきい手だなぁとか前より武骨さが薄れたなとかついつい比べてしまう(彼にとっては今しかないというのに)振り回されるのが嫌だから"多少手のかかる生徒"を演じているというのに。
「おや、目が覚めましたか?」
「新野先生、俺どうしたんです?」
「倒れたそうですよ、土井先生が血相を変えて抱えてきましてね」
くつくつと面白げに笑う新野先生はしっかりと前の記憶を持ち合わせている。倒れたと言う割に己の身体は何処も痛みはしない。受け身を取った記憶もないし、そういえば誰かと一緒だったような気もするがその辺が思い出せないでいる。
「土井先生が、抱えてきたんですよ」
「…へ?」
やんわりと念を押すようにもう一度新野先生が言葉を発する。
「どうやら土井先生の目の前で倒れたようですが、覚えていませんか?」
「……なんだかそんな感じがします」
朝から微妙に体調が優れなかったような気がしないでもない。そのまま騙し騙し過ごして…確か移動教室の折に同級生の面々といて、どいに委員会の事で話しかけられてから記憶がないのを思い出す。
「でもこれは、」
「重なったんでしょう、前と」
しっかりと握りこんだ手は離れそうにない。人の良い笑みを浮かべて新野先生はカーテンを閉めて行った(今は授業中だとも告げて)重なったのでしょう・と新野先生は口にした。だからといって前の記憶が出てきたのかどうかはわからない。変な期待はしないことにしているのだ。考えるのをやめにしてもうひと眠りしようかと思った時だった。むずりとどいの肩が揺れた。起きるな、と思いながらどいの肩を軽く揺すってみる。
「…ど、い?」
「………」
「……?」
「……ッ!」
寝ぼけ眼が焦点を結んだと思ったらぐいと引きこまれた。抱すくめる腕の力が強い上に体勢が割ときつくて息がし辛いがどいは一向に気付かない。
「どぃ、」
「……った」
「うん?」
「よか…った、」
抱え直されてすっぽりと腕の中へ納められる。逃がすことを許さないような腕の力と、肩口に埋められた顔のせいで手に取るようにわかる呼吸でどうにも身動ぎのしようがない。前に行方を晦まして見つけられた時みたいだと、思いの外早鐘になっているどいの心拍を感じる。
「おや、目が覚めましたか?土井先生」
にこにことした笑顔で新野先生がカーテンの向こうから姿を現せる。完全に保健室だということを失念していたどいが、大慌てで己を引き剥がす。
「おやおや、そんなに驚かなくても…ねぇ?」
「ねぇ?と言われましても…ねぇ?新野先生」
気配を絶たせて近付いているなというのはわかっていたので何とも言えなかったのだが、含ませた物言いは此方も共犯だと言っているようなものだ。多分己も顔が赤いんだろうと思わず新野先生から視線を外してしまう。
「で、土井先生は安心されましたか?」
「へっ!?あ、あ…あーは、はい」
「つばくらさんはまだ寝ていても構いませんから。土井先生も居られますか?」
「いっ…いえ!も。戻ります」
「今なら邪魔はいませんからねぇ」
新野先生の言葉にどいの肩がぴくりと揺れる。
「普段は邪魔が入るでしょう?」
「……新野、先生?」
「私は応援しますよ」
音もなくカーテンの向こう側に消える新野先生に、こんなところで忍の特性を活かさなくてもと小さなため息に乗せてみるが取り残されたような状況に変わりはない。新野先生が何を期待しているのか見当がつかないのだ、動きようがないと隣にいるどいへ視線を向けようとしたらベッドへ傾れ込んでしまった(不意打ちもいいとこだ)
「…ど、い」
「なんだ、」
「記 憶…」
「そうだな、半年ほどふいにしたのは勿体ないと思う」
「思う、じゃない」
「ようやく合致した」
先程同様に回された腕の力が緩む事はなく、逆に込められているような感覚。逃げ出そうと足掻いてみるが無駄のようだ、それなりに丈夫に作られているであろう保健室のパイプベッドが二人分の重量を感じてぎしりとないた。
「…落ち着いたか?」
「あぁ、だいぶ」
「どい、授業は?」
「今日はもう空き時間だ、気にすることはない」
「指導要綱作らないとってぼやいてた」
「一段落した。少しは休ませろ」
「部屋で休めばいいじゃないか」
「折角新野先生の許しを得たんだ、満喫したっていいだろう?」
なにが、と文句を言おうとする前に塞がれた(不意打ちとかそういう問題じゃないだろこれは)この流れになるとやばいと過去の経験から警鐘がけたたましく鳴らされる。
「ッ ど、い」
「わかってる」
釘を刺してみるも利いているのかいないのかわからないまま抱えなおされる。
「もう少し休め、此処最近顔色が良くないぞ、お前」
「わかってる」
「おやすみ」
「…おやすみ」
名残惜しげに体躯を離して横たわらせた。頬を撫でる感触も柔らかな声音も、前を彷彿とさせていくどいが何だか急に恨めしくなる(今までそんなの皆無だったのに)とはいえ体調が万全でもなかったのは確かで、撫でられているうちに意識を手放していた。

「もうよろしいのですか?」
「えぇ、色々とご心配をおかけしました」
「本当に。見ている此方がヤキモキしますよ」
ずずっと新野先生が湯呑を傾けて含んだ笑みを浮かべる。あぁこの人はきっと前の記憶が残っているのだと安易にわかってしまって苦笑するしかない。
「ちゃんと山田先生にもお伝えください」
「そう…ですね」
お邪魔しましたと保健室を出ようとした際、新野先生から声がかかった。
「今度は末永く暮らしなさい」
「…ありがとうございます」
前は随分と短い期間だった。己が生きてきた時間の一部としか取れない年月しか共に歩めなかったのだが、現代は前に比べて違う。医療も格段に進歩しているのだから前のようにはならないだろう。断片的な記憶がようやく繋ぎ合わさったのだと、一歩を踏み出した。



久しぶりの小噺。しかも転生学パロ(ゲフン)
こんな感じでもいいんじゃないのかとか思う。たまにはほのぼのというかそんなのがあってもいいじゃない←
最近気付けば殺伐としたのしか考えてないからたまにはこんなのもいいじゃない、と自己完結。いざ形にしようとすると途端に霧散してく状況が切ないとか、いざ書こうとしたら書けなくなるとかそんなね!切ないよね!(泣)忍たまは転生学パロだな、戦バサで転生パロしようとしたらいつの間にか救いようのない位まで殺伐してしまって泣けてきた…。

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